ドキュメンタリー『相馬看花』 〝加害者の立場で何をするのか〟 松林要樹監督 2012年7月14日

 南相馬市原町区。福島第一原子力発電所から20キロ圏内の町を舞台にしたドキュメンタリー『相馬看花』が公開中だ。原発事故が起きるまでは平穏に暮らしていた人たちが、「強制避難区域」に指定されたがために、住み慣れた家を離れていく。

 松林要樹監督は、救援物資を携え、放射能汚染と強制退去で様変わりしたこの町に入った。避難所で寝泊まりしながら、地元の人と関係を築いていく。偶然にも南相馬市で市議会議員の田中京子さんと出会ったことで、見知らぬ土地でカメラを回すことに成功した。

 「震災直後の見捨てられたような状態のなかで田中さんは、日本ってダメだねって言っていたとき、ぼくらと出会ったみたい。若い人でも、物を届けてくれる人がいるんだって印象が変わったと言っていた」

 田中さんに同行する中で、避難せずに生活し続ける粂さん夫妻に出会う。電気も水道も通っていないが、炭を使って暮らしている。お酒が大好きな夫の忠さんはこたつに足を突っ込んで、朝から飲んでいる。

 「奥さんの足が悪いから、もうここに残るんだって粂さんは言っていたけど、もしかしたら、粂さんがここに残ってお酒を飲みたかったんだろうと思う。住み慣れた家に残るほうがマシだ、と」

 この人を撮らないわけにはいかない、と松林さんは「次に来るときには酒をもってくる」と約束する。そんな粂さんには、原発関連の仕事に就いていた過去があった。

 未帰還兵を追った記録映画『花と兵隊』から3作目。「今までこの土地、そして原発に対して無関心であったことに気づいた。声をあげておくべきだったと思った」という気持ちから「何かに気付いてもらえるきっかけになれば」との願いを込め、制作した。

 ©松林要樹

 本作の副題には、「奪われた土地の記憶」とある。土地という舞台装置をめぐる葛藤は旧約聖書にもしばしば見られるものだ。土地を奪われた一人である末永武さんは、福島第一原発の建設が決まったとき、それに反対する大きな動きもさしてなく、雇用を増やす魅力的な産業であるとさえ認識していた面もあった、と語る。

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 環境保護の聖人とされるアッシジのフランチェスコが『太陽の賛歌』を書いたのは、彼の生涯の中で肉体的にも精神的にも最も厳しい時期だったと言われている。本作とフランチェスコは何の連関もないが、わたしたちは苦難と葛藤を抱えているこの時期だからこそ、大地がもつ本来の圧倒的な豊穣さに、改めて気付く。ここで安易に原発に対する賛否を結論することはできない。だが少なくとも現に、それがいま、人間の持ちうる能力の限界を問いかけていることは確かだろう。

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 松林監督は心の内をこう明かす。「単純な構造だが、被害者/加害者で分けると、東京で電気を使っていた人間である自分はどう考えても加害者の立場。そう気づかされたときに何をするのか、ということ」。

 作中に登場する粂さんは元東電だ。粂さんの描き方に対して、周囲から「突っ込みが足りない」と言われたこともある、と松林監督。「映画は人を裁くものではない。良い人悪い人と二分して論じることは良くない。そして映画を通して『こう思ってください』というものはなく、『(僕は)そんなふうに感じました』くらいにしか映画はできないです」。

 『相馬看花―第一部 奪われた土地の記憶―』は、5月26日(土)よりオーディトリウム渋谷にて公開、ほか全国順次。

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