苦難と葛藤のなかで見出される信仰と希望、愛 映画「レ・ミゼラブル」 2013年1月19日

 ヴィクトル・ユゴーの長編小説『レ・ミゼラブル』のミュージカルが映画化された。鑑賞を終えた人々は、口々に「感動した」、「涙がこぼれた」と言う。日本国民の99%は非キリスト教徒であるが、しかし彼らの心を揺さぶったこの作品は、キリスト教的な背景なしにはありえない、愛と再生の物語である。

 政治的混乱と貧困で、多くの人々が苦しんでいた19世紀フランス。主人公ジャン・バルジャンは、パンを一つ盗んだことをきっかけに19年ものあいだ過酷な囚人生活をおくり、この世を恨んでいた。だがやがて一人の神父の優しい愛に衝撃を受け、人生をやり直すことを決断する。物語では、彼の美しくも壮絶な人生と、その周辺のさまざまな人間模様、そして当時の困難な社会状況が濃密に描かれていく。

 この作品には、貧困、犯罪、信仰、法律、革命、恋愛、生と死など、人や社会のさまざまな問題が盛り込まれている。「ミゼラブル」とは「哀れむべき・悲惨な・みじめな」などの意味であり、作品全体にも陽気な要素は極めて少ない。しかしこの映画を観た人、あるいは原作を読んだ人が受ける心の震えは、民衆の哀れさや悲惨さに対する単なる同情や恐怖ではない。むしろ、苦難と葛藤のなかでこそ見出される、信仰と希望と愛の、清らかな戦慄なのではないだろうか。

 原作の最後では、死の床についた主人公ジャン・バルジャンが、娘として育てたコゼットとその夫マリウスに次のように言う。「おまえたち、いつまでも深く愛し合いなさい。この世には、愛するということの他にはなにもない」。原作のこの台詞に厳密に対応するわけではないが、ミュージカルと映画では、このラストの部分は、美しいメロディーにのせて次のような歌詞でうたわれている。「誰かを愛するということ、それは神の御顔を仰ぐこと……」(to love another person is to see the face of God…)。

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