安保法案に抗う〝うねり〟を 「殺さない、殺させない」学者・宗教者が声上げる 2015年9月12日

 安全保障関連法案に反対する動きが大きなうねりとなっている。7月16日に同法案が衆議院を通過してから、各大学の教職員・学生有志による声明が相次いで発表され、賛同者の数も日に日に増している。キリスト教主義大学による合同の集会も開催されるようになった。また、教派を超えた宗教者の抗議行動も活発化している。

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 「安全保障関連法案に反対する立教人の会」と「安全保障関連法案強行採決に抗議し、同法案の廃案を求める上智大学教職員有志」は8月29日、「私たちはなぜ安保法案に反対するのか――立教・上智有志からの発信」と題する合同の集会を日本聖公会聖アンデレ教会(東京都港区)で開催した。約180人が参加し、両大学以外のキリスト教主義8大学からも連帯表明やメッセージが寄せられた。

 立教からは、浅井春夫(「立教人の会」共同代表、コミュニティ福祉学部教授)、稲葉剛(21世紀社会デザイン研究科特任准教授)、西谷修(文学研究科特任教授)、上智からは、田中雅子(総合グローバル学部准教授)、光延一郎(神学部長=写真左下)、澤田稔(総合人間科学部准教授)、の各氏がリレートークを行い、立教の大学院生と上智の卒業生もこれに加わった。

 

 また、阿部太郎(名古屋学院大学経済学部教授)、宮平望(西南学院大学国際文化学部教授)、須藤伊知郎(同大学神学部長)、山口陽一(東京基督教大学教授)、川島堅二(恵泉女学園大学学長)、渡辺信二(フェリス女学院大学文学部教授)の各氏がそれぞれの声明を携えて参加し、連帯を表明した。

 さらに国際基督教大学教職員有志代表(伊藤辰彦、稲正樹、千葉眞他呼びかけ人)、永野茂洋(明治学院大学「安全保障関連法案に反対する有志声明」呼びかけ人、同大学教養教育センター教授)、山本俊正(「安保関連法案に反対する関西学院大学有志」呼びかけ人、同大学商学部教授)の各氏が文書で連帯メッセージを寄せた。

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 開会あいさつを行った「立教人の会」共同代表の西原廉太氏(立教大学文学部教授=写真右下)は、「上智と立教それぞれの建学の精神、また共通するミッションが、この安保法案に抗ううねりを生み出しているのだろう」と述べた。「はからずも、日本の主要なキリスト教系諸大学の有志が共に声を合わせることになった。これは、もう二度とわたしたちの大事な学生たちを戦地に送らない、武器を取らせない、誰も殺し殺させないという願い、いのちと真の平和を願うわたしたちキリスト教系諸大学の、ある意味声を振り絞るような祈りのつながりに他ならない」と訴えた。

                         

 「自立生活サポートセンター・もやい」でホームレスの支援活動を行っている稲葉氏は、元自衛官だと名乗るホームレスに多数出会ってきたとし、演習による爆音で難聴になった人や、自衛隊の中での人間関係のストレスによって精神疾患を患った人がいたことを紹介。「今後自衛隊の海外派遣が行われていけば、ますますホームレスになる人が増えてしまうのではないか」と危機感を募らせた。加えて、貧困家庭の出身者が自衛隊に入隊している事実も指摘し、今後自衛隊員の募集が困難になったときに、経済的条件を利用して兵士を確保する「経済的徴兵制」を防衛省が強化することを懸念した。

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 光延氏は、「上智大学教職員有志」による声明の中でも触れられている1932年の上智大生靖国神社参拝拒否事件をきっかけとしてキリスト教界、宗教界が軍国主義に屈服してしまった歴史に言及。「日本のカトリック教会は戦前の苦い記憶があるので、特に戦争反対や平和、思想・信条・良心の自由という問題にはとても敏感」だとして、2月に発表された「戦後70年司教団メッセージ」などを紹介した。また、安倍政権の政治手法が乱暴で、「ブレーキがない」ことを危惧。「安倍政権には真理、愛、正義、自由、いのち、平和、共生といった人間観、哲学がまったくない」と問題視した。

 閉会あいさつで中野晃一氏(上智大学国際教養学部教授)は、学生団体「SEALDs(シールズ)」や「安保関連法案に反対するママの会」、各地元グループなどを例に、「我々は平和主義を口にすることを恐れなくなった。自分たちの言葉で自信を持って平和を語れるようなところまで来た。これはすごいこと。だから負けない」と訴えた。

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 「立教人の会」が7月24日に発表した声明の賛同者数は、9月3日現在で1226人と1団体(呼びかけ人含む)。「上智大学教職員有志」が7月31日に発表した声明の賛同者数は、9月2日現在で1187人。

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 キリスト教、仏教などの宗教者19人が呼びかけ人となった「戦争法案に反対する宗教者・門徒・信者全国集会――国会前抗議祈念行動」が8月24日、東京・千代田区の星陵会館で開催された。信徒、門徒を含む約350人が参加した。

500人以上が参加した宗教者の抗議祈念行動

 キリスト教界からは、平和を実現するキリスト者ネット(平良愛香事務局代表)、日本カトリック正義と平和協議会(勝谷太治会長)、日本キリスト者平和の会(平沢功事務局長)、カトリック大阪大司教区シナピス(神林宏和シナピスセンター長)、日本キリスト教協議会(NCC)平和・核問題委員会(内藤新吾委員長)などの団体が賛同している。

 基調報告を行った政治学者の渡辺治氏(一橋大学名誉教授、九条の会事務局)は、8月上旬で国会を閉会できずに9月末まで会期を延長せざるを得なくなったのは、安倍政権が反対運動によって大きく追いつめられていった結果だと語った。日本各地で反対運動が高まっていることについて、党派や、運動団体、宗教者などの中で協働が実現したことを指摘。まだ行動に移していない人々に働きかける必要性を訴えた。

 集会では、呼びかけ団体を代表して、キリスト教界からはNCC議長の小橋孝一氏が、ルカ19章40節を引用し、「誰が黙っても自分たちは叫び出す、石になる決意を新たにしたい」とあいさつ。また勝谷太治氏は、真理や人間の尊厳が抑圧されたときに生まれる、「聖なる」怒りを正しく表明することが大切だと語った。

 集会では、「『殺さない 殺させない』『兵隊も武器も用いない』この『言葉』がここに集う私たち宗教者・門徒・信者、そして参加者一同の共通の願いであり、わたしたちの信じる教えの根底をなす『真理』である」に始まるアピールも採択された。

 集会終了後は、衆議院第二議員会館前に移動し抗議祈念行動を開始。抗議には500人以上が参加した。会館前での呼びかけ人によるスピーチでは、キリスト教界からは、平良愛香氏のほか、内藤新吾氏や、キリスト者平和の会代表の吉田吉夫氏がスピーチ。平良氏は、「宗教者は、夢や理想を語るが現実は見ていないと言われるが、宗教者が理想や夢を語らないで誰が語るのか。現実を見ていないのではなく、これが現実だと知っているから戦うのだ」と語った。

 

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