【置かれた場所は途上国】 カンボジア■中■ 「社会での成功」の指標は、収入 池内千草 2018年3月11日

 英語を話すカンボジアの若者(つまり外の世界へのアクセスがある人たち)はチャンスに対して非常に貪欲で、いかに人よりも前に出るかということを意識して毎日生活している様子が見て取れました。「自分たちにはチャンスがなかなかないのだ」と、仲良くなったカンボジア人がよく言っていました。彼らの家に遊びに行って日々の生活に触れると特に、生きるために一生懸命戦っている様子を目にすることができます。

 しかし同時に、そのチャンスを手に入れる際、あまりにも目先のことにとらわれているのではないか、とカンボジアに駐在する外国人駐在者の間で議論することもありました。つまり、キャリアアップを考える際、仕事の中身というより給料の額で決定することが多く、職歴を見ると仕事の内容に統一性がなかったり、高給の仕事に運よく就いてもスキルが追いつかず長続きしなかったり、いわゆるジョブ・ホッパーになってしまうことが多いのです。

 わたしが職場の上司/先輩として転職の相談を受けた際、転職先が確実にキャリアアップにつながるいい仕事だと思っても、仕事に従事する時間が増えるのに対して給料が上がらないのであれば彼らにとっては意味がなく、あっさりと断ってしまいます。そのような様子を見るにつけ、特に優秀なカンボジア人であればあるほど残念に思うことがありました。しかし、わたしたちが使う「キャリアアップ」という言葉は、やはりある程度生活に余裕があるから成り立つ考え方なのかな、と考えさせられます。

支援者からの手紙を読む子どもたちとカンボジアのスタッフ

  30年以上カンボジアで働くある先輩スタッフは、わたしがそんなことをつぶやくと「そういう背景もあると思うけれど、同時に、カンボジアにはいわゆるロール・モデルとなる一世代上の大人がいないので、自分がどういう大人になりたいか、どういう職業人となりたいかを具体的にイメージすることができないことも問題だと思う。結局『社会での成功』の指標を、いくら収入があるかでしか見られなくなるのだと思う」という趣旨の説明をしてくれ、説得力のある話だなと思いました。

 ロンドン大学オリエンタル・アフリカ研究科でカンボジア研究の専門家として教鞭をとる知人は、クメール・ルージュ前のカンボジアに調査に来たことがあり、当時のカンボジアには社会秩序があったと話していました。カンボジアでは、目に見えるもの、見えないもの、さまざまなものがクメール・ルージュによって破壊されたということを、実感をもって感じる瞬間でした。

(写真提供・協力:ワールド・ビジョン・ジャパン)

 いけうち・ちぐさ 東北大学大学院修士課程修了後、私立高等学校にて英語講師として勤務。その後タイ王国チュラロンコン大学大学院タイ研究講座を修了。2003~2006年の3年間、タイの国際機関や日本のNPOなどでインターン・コンサルタント・国際スタッフとして契約ベースで勤務。帰国後、千葉の財団法人、海外職業訓練協会勤務を経て、2008年ワールド・ビジョン・ジャパン入団。2010年から6年間人身取引対策事業のためにカンボジアに駐在。現在、支援事業部開発事業第1課配属。

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