【宗教リテラシー向上委員会】 しのぎ削って新しい創造を 池口龍法 2019年12月25日

 「お寺離れ」「仏壇離れ」という言葉が独り歩きしているが、お寺文化はファストフード店のように全国画一のサービス展開をしているわけではなく、地域によってその姿はさまざまである。

 一例を挙げるなら、関西ではサラシに包み直して納骨し、早く母なる大地へと返っていくことを望むが、関東だと骨壺のままお墓に納め、遺された家族や親族をいつまでも見守っていてくれるよう願う。仏壇に関しても、京都には京仏壇、滋賀には彦根仏壇、愛知には名古屋仏壇と三河仏壇など、産地によって少しずつスタイルが異なる。

 したがって、お寺文化が再び隆盛するには、お坊さんだけが奮闘すればいいわけではない。地域の力、特にそれぞれの仏壇文化圏を支えてきた、仏師、塗師、箔押師などの仏具職人集団の力が結集されてこそ未来がある。しかしながら、私の知る限りでは、培ってきた技術を守るために、古くからの伝統を変革しようという機運は低調だった。ただひとり気を吐いていたのは、ウルトラマンとコラボして開発した「ウルトラ木魚」などで注目を集めた三河の都築数明さん。仏具業界のスタープレイヤーというのは、すなわち都築さんを指したと言って過言ではない。

 ただ、この1年に関して言うと、京都の仏師・三浦耀山(ようざん)さんの活躍には目を見張るものがある。臨終を迎える時に阿弥陀如来が極楽浄土へのナビゲーターとして菩薩を引き連れて現れるという世界観をリアルに表現するために、軽量化してドローンに載せた仏像「ドローン仏」を開発し、昨年11月に本堂でのフライトに初成功した。その衝撃的な映像はただちにネット上を駆け巡った。

 その三浦さんの「一日仏像彫刻体験教室」を、今年の春から私のお寺で開催している。「ドローン仏の人」として三浦さんがメディアにクローズアップされるたびに予約が入る。「ドローン仏」は、技術伝承のためのナビゲーターとしても確かに機能している。そして、三浦さんはこの秋、京都の他の仏具職人にも声をかけて、仏具系ポップユニット〝みうら*ぱるむす〟を結成した(私はマネージャーを務めている)。「技術の粋を用いて新しい形のお寺を作る」という壮大な夢を語る一方で、「般若心経」に旋律をつけて歌いながら職人の技を紹介する映像を制作して配信するなど、体を張った柔らかいアプローチにもチャレンジしている。

 もちろん、仏像をドローンに載せて飛ばすことや、職人がポップな映像を配信することに、戸惑う人や批判する人もいるだろう。だが、少し考えてみてほしい。法事用の数珠が100円均一ショップのラックに並んでいる時代である。決まりきった仏壇や仏具を作るだけなら、海外の工場で大量生産する方が、はるかに安価で済んでしまう。しかし、私たち一人ひとりの宗教心情はまるで異なるし、ライフスタイルも多種多様なのに、チープで画一的な仏壇や仏具だけで信心が養われるとは到底思えない。せっかく職人集団がまだ各地にいる間に、技術と創意によって信仰文化のにぎわいを導いていくべきである。

 三浦さんたちの活躍によって、京都の仏壇文化に光が射し始めたように感じている。さまざまな試みがどのように実を結んでいくのか。京都に暮らす私としては、楽しみで仕方がない。そして、他の文化圏でも、職人がしのぎを削って新しい創造を始めることを願ってやまない。職人が技術によって各地の仏壇文化を地道に耕していくことこそ、この国の信仰文化を豊かにする近道だと信じている。

池口龍法(浄土宗龍岸寺住職)
 いけぐち・りゅうほう 1980年、兵庫県生まれ。京都大学大学院中退後、知恩院に奉職。2009年に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させ代表に就任、フリーマガジンの発行などに取り組む(~15年3月)。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)/趣味:クラシック音楽

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