いのちの電話 公開講座で細谷亮太氏 「大丈夫」に込めた祈り 2011年2月5日

 東京多摩いのちの電話(松平一美理事長)は1月22日、国分寺労政会館(東京都国分寺市)で小児科医の細谷亮太氏(聖路加国際病院副院長)を招き、「自殺予防いのちの電話」公開講座を開催した。「生きようよ」と題する講演に約130人が耳を傾けた。

 細谷氏が同僚の医師らと始めた小児がんの子どもたちとのキャンプは、伊勢真一監督によりドキュメンタリー映画『風のかたち――小児がんと仲間たちの10年』として記録され、2009年度の日本カトリック映画賞にも選ばれた。

 同作で使用されなかった延べ20時間に及ぶインタビューを中心に、小児がん治療の最前線での奮闘に密着した姉妹編が、このほど完成。タイトルは細谷氏の口癖から『大丈夫。――小児科医・細谷亮太のコトバ』と付けられた。

 自分ではあまり意識していなかったという同氏。医学部では、むやみに患者を励ます行為は訴訟のもとと教えられているが、細谷氏にとって根拠のない「大丈夫」という言葉は「祈りのようなもの」だという。

 40年にわたり小児がんの治療に携わるようになった契機について、「小児がんが治らない病だった時代、告知された親が半狂乱になる姿を間近に見ながら、これは自分の成すべき仕事だと不思議と思うようになった」と述べ、辛い思いを共有できにくい子どもたちのためにキャンプを始めた経緯を紹介した。

 細谷氏は診療を通じて、幼い子どもたちが周囲の人々に思いやりを持ちながら、「大丈夫」というメッセージを残して亡くなっていくという場面に何度も遭遇した。

 19歳で悪性腫瘍を患い20歳で亡くなったある女性は、シベリアに単身赴任中のお父さんとの最後の電話で「今度生まれてくる時も、ちゃんとお父さんのところに来てあげるよ」と話したという。

 「闘病中の子どもたちの生きがいは、自分なりの命をしっかり生きたという自信だったのではないか」と同氏。

 「タイガーマスク運動」についても言及し、「こうした相互扶助はかつて『歳末たすけあい』などを通じて日常的に行われていたが、本当に欲しいのはランドセルではない。わたしたちは助け方を忘れてしまったのではないか」と指摘する一方、「辛い思いをしている人たちのことを考えることと同時に、辛い思いをしている人自身が、自分たちだけじゃないという思いを持つことも重要」と話した。

 また、思わぬ形で善意が報われることがあるという自身の体験から、「どんなに小さいことでもコツコツ善いことをすることは大事なこと。困っている人の話を聞く時に一番大事なのは、『どうにかなる』という感覚を自分のものとして身につけること」と助言した。

【メモ】
 細谷亮太=1948年山形県生まれ。聖路加国際病院副院長。『医者が泣くということ』(角川書店)ほか著書多数。俳人・細谷喨々として、句集『桜桃』(東京四季出版)、『二日』(ふらんす堂)がある。

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