復活祭日(イースター)メッセージ 苦難の中にあっても慰めと喜びは賜れる セラフィム辻永昇 2011年4月23日

 聖使徒パウェル(パウロ)は「ハリストス(キリスト)は眠っている者の初穂として死人の中から蘇ったのである」(コリント1 15:20)、「アダムにあってすべての人が死んでいるようにハリストスによってすべての人が生かされている」(コリント1 15:22)とハリストスの復活を教える。

 初めの人アダムとエワ(イブ)の罪により、人は死に支配されるようになったが、それを打ち破り、人に新たな生命の道を啓いてくださったのが神の子イイスス(イエス)・ハリストスの死と復活であった。

 もちろん、この復活というのはただ肉体の死にある者が生き返ったということではなかった。ハリストスが十字架で死なれた時には、お弟子たちさえも旧約以来、救い主の奇蹟と預言されていたイイススの多くの業(わざ)を実際に見、体験していたにもかかわらず、恐ろしくなって逃げ出したと聖書は伝えている。誰も復活などということを信じようとはしなかったのである。

 しかし、ハリストスが三日目に復活されてから全てが変わる。復活された、それは全く新しい体をとられたハリストスと聖書は記しており、そのハリストスとの出会いにより、あの愚かで弱かったお弟子たちが「復活」すなわち「福音」を宣べ伝える器となったのである。

 我々は復活祭の祈祷の中で、ハリストスの死と復活を二千年前のお弟子たちと同じ体験をするが、我々も彼らと同じものを得なければならないだろう。それは、復活の主との出会いは人に内面的な変容をもたらすということである。ルカ伝に記されているエンマウス(エマオ)の旅に出た二人の姿は良くそのことを教えている。はじめ二人は復活の主を分からなかった。彼らの肉体の目と耳だけでは復活されたハリストスを認めることが出来なかったのである。しかし、聖書を説かれ、祈りをし、パンを裂かれたことにより、ハリストスの復活を確信する。聖書には「彼らの目が開け、イイススだと分かった」(ルカ24:30)と記されている。

 二人の心には不信仰な自分が見え、悔改めと復活の主に出会った喜びが湧き上がったに違いない。その喜びを伝えるために日が暮れているにも関わらず、すぐに立ち上がってイエルサリム(エルサレム)に帰ったのである。

 今の我々はどうだろう。復活祭の喜びが自らの変容につながるものになっているのだろうか。人々に伝えなくてはならない喜びを感じることができるのだろうか。「復活」などと言うと、何か我々が肉体の死を迎えてからの遠い先の出来事にも思ってしまうかも知れない。

 しかし、我々は肉体では生きていても、その霊的な状態において死に陥ることも忘れてはならない。復活祭の聖歌は「ハリストス死より復活し、死を以て死を滅ぼし、墓に在る者に生命を賜えり」と歌いあげるが、自らを墓とした死にある状態から再び生きる生命によみがえることが、我々の復活の体験であり、復活祭の喜びである。

 3月11日、東日本大震災の発生により東北地方は未曾有の被害を受けた。教区全域が被災地となった我々はこの困難な時に何が出来るのだろうか。募金や物資を送り、ボランテイアを募り、救援活動に励むだけでよいのだろうか。今の必要に応じるためにはそれだけで良いのかも知れない。しかし、全てを失い、途方にくれている人々を前に何を語ることが出来ようか。なぜこのような事が起きたのかと問われた時に、何を答えられるのだろうか。忍耐や希望などといたずらに聖書の言葉を撒き散らすだけで良いのだろうか。

震災後、被災地を巡り、信者たちと話をした時にあまりにも自分の言葉が弱く、空虚なものに感じたことは否めなかった。そして、真に人を慰めることが出来るのは、相手との交わり(愛)を成就した時であり、祈りを共にした時だけではないかと、被災地の聖堂で犠牲者のための祈りをした時に考えさせられたのである。

関東大震災の後、東京に住んでいたロシア人画家ワルワラ・ブブノワは「すべての悲しむ者の喜び」という伝統的な主題のイコンを制作した。そこには震災後の東京を思わせる荒涼とした地と、幼子ハリストスを抱いた生神女(しょうしんじょ)マリヤにひれ伏し祈る人々が描かれている。当時の正教会はあえてロシア語の「喜び」という意味の語を「慰藉(なぐさめ)」と訳したのであった。

 ハリストスと祈りの転達者としての生神女マリヤこそが我々の慰めと希望の源であり、どのような苦難の中にあっても、慰めと喜びが賜れることを忘れてはなるまい。そして、教会には信者のみならず、社会の霊的な支えという特別な役割のあることを、これからの過酷な復興事業の中で学んでいかなければならない。

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