夫婦でリードオルガン修理15年 オルガニストに講習会も 伊藤信夫・園子夫妻 2011年5月7日
リードオルガンホームドクターとしてリードオルガンの修理・相談に携わる伊藤信夫さん(77)、園子さん(68)夫妻(日本バプテスト連盟日本バプテストキリスト教目白ケ丘教会員)。信夫さんが分解・修理を担当し、園子さんが演奏して音を調整。夫婦二人三脚で15年間続けてきた。これまで44台のリードオルガンを修理したという伊藤夫妻に話を聞いた。
伊藤夫妻が修理を始めたのは、ピアノを演奏していた園子さんが目白ケ丘教会でリードオルガンの奏楽担当になったことがきっかけ。リードオルガンの弾き方を学ぶため、日基教団霊南坂教会のオルガニストであった大中寅二氏に師事。また、パイプオルガンについても学びたいと、キリスト教音楽学校(東京都中野区)、聖グレゴリオの家宗教音楽研究所(東久留米市)にも入学した。実際にオルガンを製作した経験のある奏者の弾き方が、普通の演奏家の演奏と異なることに気付き、オルガンの構造を知ることでより良い音が出せるのではないかと考えた。
夫妻は骨董店で壊れたリードオルガンを購入。信夫さんが分解を始めた。不動産管理会社の相談役を務める信夫さん。日曜大工が趣味で、これまでもテーブルやテレビ台などを作ってきたが、リードオルガンを分解してみて、その構造に興味を引かれた。リードオルガンの修理を専門とする長野在住の和久井輝夫さん(日基教団須坂教会員)とは以前から交流があり、電話でアドバイスを受けながら、約1年かけて修理した。「直すのが本当に大変でした。後から考えても、ありとあらゆる課題のあるオルガンでした」とふり返る。
その後も出張先の骨董店でオルガンを購入したり、不要になった人から譲り受けるなどして、分解・修理をくり返した。続けるうちに、園子さんのオルガニスト仲間から相談を受けるようになり、修理を請け負うようになった。教会や学校からも依頼を受けた。
修理にかかる時間は1台あたり、およそ3カ月。時間を見つけては、自宅地下の作業場で修理を続ける。場合によっては完成までに半年かかることもある。修理作業が一旦終わると、園子さんが実際に弾いて調整し、不調の際には再度分解し直す。「曲を弾いてみると、1音ずつ鳴らすのとは違うトラブルが分かる」と園子さんは言う。
信夫さんは部品の接着に、木工用ボンドではなく、「にかわ」を必ず用いている。手間はかかるが、きれいにはがすことができ、再度分解することができるからだ。部品にもこだわり、手に入らないものは自分で作ってしまう。特殊なリードを発注して作ったこともある。
今年の3月10日~11日には、日本バプテスト連盟の研修施設・天城山荘(静岡県伊豆市)で2回目となる修理講習会を開催した。オルガニストを対象としたもので、カトリックや聖公会などから20人が参加した。2日目には東日本大震災が発生したが、幸いにも被害は少なく、参加者との結び付きが一層強くなったという。
講習では、信夫さん手作りのミニチュアのオルガン模型を使って、その構造を説明する。演奏歴の長い人でも、構造を知る人は意外に少ない。「構造を想像しながら弾くと、本当に音が変わります」と夫妻は口をそろえる。
相談を受けて診断に赴く際は、必ず二人のスケジュールを合わせる。夫婦で役割を分担できることが強みだと信夫さんは言う。これまで培ってきた技術を次世代に引き継いでいくことが今後の課題だ。「『直したら死ぬまで責任を持ちます』と言うと、『元気でいてください』と皆さんおっしゃいます」と語る園子さん。「オルガンは個性がさまざま。修理していると、いろいろなことが起こります。わたしたちの中で〝卒業〟はないです」