「大学教員の課題」でシンポ 青山学院大学総合研究所 2011年6月4日

 「フンボルト理念の終焉?――現代日本の大学教員の課題」をテーマとするシンポジウムが5月14日、青山学院大学で開催された。同大学総合研究所の研究プロジェクト「キリスト教大学における学問体系論」(西谷幸介代表)が主催したもので、大学教員を中心に約30人が出席した。

 潮木守一氏(元・桜美林大学大学院国際学研究科教授、名古屋大学大学院国際開発研究科教授)が主題講演を行い、西山雄二(首都大学東京准教授)、東方敬信(青山学院大学教授)、深井智朗(聖学院大学総合研究所教授)の3氏がリスポンデントを務めた。

 『フンボルト理念の終焉?――現代大学の新次元』(東信堂、2008年)の著者である潮木氏は、ヴィルヘルム・フォン・フンボルトが教師と生徒を同列に扱い、「研究をする学生」という考え方を提唱したことに触れ、1810年に設立されたベルリン大学では「ゼミナール」の中で学生と教員が一緒に研究を行っていたことを紹介。「研究をさせることが教育。これがドイツの大学で起きた大きな変化だった」と述べた。

 一方で、フンボルト理念が学問好きな限られた学生しか取り込むことができないことも示し、大衆化した現代の大学では、学生の目標は研究者になることではなく、一般市民になることであると主張。「『市民教育』が重要だとしたら、若い世代に考えてもらう素材・チャンスを提供しなければならない。これが大学の課題」と語った。

 また、スウェーデンでは大学の新入生の2割が29歳を超えていることを示し、異年齢間のコミュニケーションが重要であると指摘。「意味の共同理解の場としての大学」を掲げ、「われわれは語り合わなければいけない。そのことによってわれわれの考え方は少しずつ変わり、それなりの深みが出てくる」と結んだ。

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 西山氏は、潮木氏の前掲書をもとに、学生自身による自己学習の機会として、今日ではオープン・エデュケーション、オープン・テクストが発達し、インターネット上で大学の講義が無料公開され始めていることを紹介。

 また、フンボルト理念からの離脱の議論に着目し、日本でも「研究と教育の分離」が広がりつつあることに言及した。最後にフンボルト理念に賛成の意向を示し、「失敗を宿命づけられた理念だからこそ、なおさらすばらしい」と述べ、学生と教師だけでなく、事務員・院生・企業が関わることで「バージョンアップ」することが大事だと主張した。

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 東方氏は、青山学院大学の取り組みとして、総合文化政策学部の実習科目「ラボ・アトリエ実習」を取り上げ、その中の「フェア・トレード・ラボ」の活動に言及した。

 この活動は、学食でのコーヒー販売や表参道の「青山祭り」への参加などを通して、「世界経済や貿易の歴史を学びながら、公正な貿易を目指す実験に参加する」ことを目指しており、「人間教育として、自分も歴史的な存在の一員だということを、大学自体が経験させる」ものだと紹介。「セルフ・インタレストを土台にした経済活動を批判的に理解しながら実践してみる」活動であり、「批判的隣人愛の視点と言える」と述べた上で、「社会貢献しながら平和を目指すような大学像が、キリスト教大学が示せることではないか」と提言した。

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 深井氏は、神学者アドルフ・フォン・ハルナックが1910年のベルリン大学100周年の際に、フンボルトの理念と哲学を再評価する講演を行ったことに触れ、当時の大学の神学部がドイツ帝国のナショナル・アイデンティティー形成に寄与していたことに言及した。

 神学部の政治化・国策化への批判として「神学部外の神学」が生まれ、思想の場が大学から市場に移行したことにより、「思想の商品化」が起こったとし、「経済行為における利益や成功が人間の道徳を破壊し誘惑するのと同じ出来事が、学問と大学教員に押し寄せてきたのではないか」と指摘。このような今日の状況を止めることは困難であり、大学の倫理、研究者の倫理が問われることになると述べ、「キリスト教大学はますますその設置理念や寄付行為をもってこのような現代の精神的状況と対峙していかねばならない」と語った。

メモ
 フンボルト理念=大学は教師と学生がともに研究する場であるとする、ドイツの言語学者ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(1767~1835年)の構想。1810年に創設されたベルリン大学の基本構想を作ったのがフンボルトだとされてきたが、2001年、ドイツの歴史学者シルヴィア・パレチェクは、フンボルトの構想の草案が発見されたのが1903年であるとの説を提唱。その有効性について現在さまざまな肯定的・否定的意見が提唱されている。

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