〝自由になるための絆を〟 ホームレス支援22年 奥田知志牧師が講演 2011年6月18日
『もう、ひとりにさせない』出版記念
北九州で22年間ホームレス支援を続けている奥田知志氏の著書『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)の出版記念講演会が5月30日、東京都目黒区の日本バプテスト連盟恵泉バプテスト教会で開催され、200人が出席した。
奥田氏は、認定NPO法人北九州ホームレス支援機構の理事長を務めており、日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会の牧師でもある。講演に先立って、呼びかけ人の中から、大西晴樹(明治学院大学学長)、関田寛雄(青山学院大学名誉教授)、茂木健一郎(脳科学者)の3氏があいさつした。
奥田氏の著書について関田氏は、「適切な文脈の中で聖書の言葉が引用されている。説得的な聖書のメッセージになる」と述べ、「将来牧師になろうという人に読んでほしい」と呼びかけた。茂木氏は、キリスト教をバックボーンとした奥田氏の活動に触れ、「キリスト教の思想から普遍的な人間的価値に至る道があるということを、これからの日本は大事にしなければいけない」と語った。
2009年、NHKのテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演した奥田氏。その時のタイトル「絆が、人を生かすから」に基づき、内閣府のパーソナル・サポート・サービス検討委員会委員として「絆の制度化」を訴えてきた。しかし、東日本大震災後の「絆ブーム」に危うさを感じ、自省の思いを込めて「絆」について再考したいと、今回の講演の目的を明らかにした。
奥田氏は「絆には傷が含まれる」と述べ、昨年末から続いた「タイガーマスク現象」の「匿名性」について評価する一方、「直接出会うと傷つくことがある。裏切られることがある。それを恐れて匿名化の中に逃げて本当によいのだろうか」と指摘。自らの経験に基づき、「対人援助の現場は傷つくことから始まる」と語った。また、「自己責任」「安全・安心の確保」という名目でホームレスが排除されているとし、「その結果、わたしたちは孤立したのではないか」「誰も傷つかないような絆は本当の絆ではない」と訴えた。
さらに、「絆」の存在理由を「人は一人では生きていけない」からだとし、本当の絆は、「一人であること」と「共にいること」が対の概念として成立することだと述べた。
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震災で「神不在の現実」に直面
奥田氏は今回の震災の被災地を見て、「神も仏もあるものか」というような「揺らぎ」を感じ、「神不在の現実」から聖書を読み返したという。ディートリッヒ・ボンヘッファーの言葉「神の前で、神とともに、われわれは神なしに生きる」を引用し、キリスト教の神は「十字架の神」であると強調。「キリスト教の救いは全能によってではなく、弱さと苦難によって開かれる」と語った。
その上で、マルコ福音書8章の「盲人のいやし」のエピソードから、「イエスにいやされた者は、新しい生き方に入る」と述べ、「本当に絆を築くのであれば、新しい出会いによって新しい社会、新しい世界を築けるのではないか」と主張。マルコ12・10を引用し、「わたしたちは新しい家を作ろう。見捨てられた人、悲しんでいる人、苦しんでいる人、誰からも相手にされなかった人、ひとりぼっち公園の隅で死んだ人、そういう人たちの一つひとつの骨を組み合わせて家の骨格としよう。新しい絆を作ろう。わたしたちは、人間が本当に自由になるための絆を作ろうとしている」と結んだ。