支援者の「心のケア」を 上智大学グリーフケア・セミナー 専門家が指摘 2011年7月16日

 東日本大震災から3カ月が過ぎ、被災地や支援にたずさわる人への心のケアの必要性が求められている。上智大学は6月29日、「悲嘆」に関する基礎的な知識や留意事項の理解を深めることを目的としたグリーフケア・セミナー「東日本大震災関係者に対する心のケアについて」を、同大学(東京都千代田区)で開催した。

 第1回目となる今回のセミナーでは、シスター高木慶子(上智大学グリーフケア研究所所長)、島薗進(東京大学大学院教授・「死生学」COE)、鶴田信子(被害者支援都民センター臨床心理士)の各氏が報告。司会は大橋容一郎(上智大学文学部長)、横山恭子(上智大学カウンセリングセンター長・総合人間科学部心理学科教授)の両氏が務めた。

 釜石市など、これまでにも被災地を訪れている高木氏は、災害による悲嘆の特徴を解説。悲嘆は種々の喪失体験から生じ、喪失の対象は「人」に限らず、本人にとって大事だと思うものすべてにあてはまる。家族や友人の喪失のほかに、病気による身体の一部の喪失、財産、仕事などの所有物の喪失、環境、役割、自尊心など多岐にわたる。

 自然災害と人為的災害では、悲嘆も異なってくると説明。自然災害は「加害者が大いなるものに由来し、見えないために自責の念が長く残り」、人為的災害は、「加害者が存在するため、複雑な悲嘆状態が長引く」と話す。JR西日本の福知山線列車事故の被害者の「心のケア」にも関わる高木氏は、「人為的災害は、非常に深い悲しみを怒りのエネルギーに換えている。福島の原発事故は長引くだろうと思う」と述べた。

 また、悲嘆者がどんなことを言おうと丸ごと受け入れる「寄り添う」姿勢の重要性を訴えた。

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 臨床心理士として殺人や性犯罪といった理不尽な事件に巻き込まれた人のケアにあたる鶴田氏は、災害のもたらすストレス、心のケアの基本的指針と留意点、支援者のストレスとケアなど、具体的に話した。

 回復を妨げる要因に、励まそうと思った言葉でかえって相手を傷つけてしまう二次被害もあると指摘する。「がんばりましょう」「神が与えた試練だと思いましょう」「いつまでもくよくよしないで」などの言葉は、「背後にある意味を考えて使うべき」と発言。

 支援者のストレスとして、トラウマ体験を負った人の話を聞くことで、被災者と同様のトラウマ反応が生じる二次受傷(代理受傷、共感性疲労)、バーンアウト(燃え尽き症候群)を挙げた。

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〝悲しみ深いほど連帯も〟

 島薗氏は、「東日本大震災の悲しみと宗教」と題して、仏教や神道、新宗教に知り合いが多いことから、「宗教者災害支援連絡会」を開設したことを報告。宗教、宗派の壁を越えてニーズに合わせて、「誰でもできることを宗教的な精神を込めて行うことの意義、そして宗教者でなければできないこともある」と考えを示した。

 大伴旅人や大伴家持、宮沢賢治といった文人の遺した文章などから、悲しみから生まれる力について説いた。「悲しみが深いときこそ、連帯の気持ちも深くなる。悲しみのもとでつぶされないような支援の仕方、ビジョンを持てたらいいなと思う」

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 質疑応答で、震災からの復興に必要なものとして「宗教」を挙げた高木氏。特に東北地方は仏教の影響力が強い土地である。被災地で自衛隊やボランティアらが活動する場で、知り合いの僧侶がそうした場に入り読経を唱えたエピソードを明かす。

 「彼は皆が手を休めて合掌してくれたと言っていた。あの場で読経が聞こえてきたら誰もが動きを止めた。それが寄り添うこと、癒しとか救いなのではないか」

 同セミナーは今後も継続していく。次回は7月上旬の予定で主題は、「被災地からの提言と要請――首都圏からの応答のあり方を考える」。

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