原発を問う教会、原発に問われる教会 日本キリスト教会東京中会靖国神社問題特別委員会が学習会 2012年9月1日
原発問題に対する教会的発言・教会的行動が求められていることを覚え、日本キリスト教会東京中会靖国神社問題特別委員会(栗田英昭委員長)は同蒲田御園教会(東京都大田区)を会場に、「原発を問う教会、原発に問われる教会」をテーマとする学習会を8月13日に行った。
渡辺信夫(日本キリスト教会東京告白教会前牧師)、渡辺和人(日本キリスト教会宇都宮松原教会長老、獨協医科大学准教授)、住吉英治(日本同盟基督教団勿来キリスト福音教会牧師)、上山修平(日本キリスト教会横浜海岸教会牧師)の4氏が発題。74人が出席した。
渡辺信夫氏は、「戦争罪責と原発問題」と題し発題。山本義隆著『福島の原発事故をめぐって――いくつか学び考えたこと』(みすず書房、2011年)の中で、原子力利用という思想の淵源として、人間の偉大さを論じたルネサンス期の思想家ピコ・デラ・ミランドラの名前が挙げられていることに着目。その関連で、同時代人の思想家であるマキャベリが権力の機能を絶大なものと見たことに対し、カルヴァンが地上の権力は神に基づいているものとして肥大化してはいけないと警告したことを紹介した。
その上で、現在の核エネルギーの問題に、国家、官僚、政界の権力が結び付いていることを指摘し、「権力、富の力が肥大化しないようにする使命を教会として持たなければならない」と訴え、力あるものの拘束から人間の魂を解放することが教会の務めであるとした。
「知の追求と原子力の利用――放射線業務従事者から見た原発問題」と題して発題した渡辺和人氏は、「原発事故以降、科学技術あるいは知性に対する反発が強まっているが、今こそ知性によって人間の限界を知ることが必要」と述べ、身につけるべき知性として、「ある一つの説を聞くだけでなく、他の説はないかと探す能力」「それらを比べてどちらが論理的に正しいか判断する能力」「判断がつかないとしても『疑いを持ち続ける(相手に言いくるめられない)』能力」の3点を示した。
さらに、教会内で「知性の否定」「知性に対する不誠実な態度」が見られるとし、「教会の土台を揺るがしかねない」と危惧。「今まで勉強してこなかったから、今回の原発事故に対して教会として何も発言できない。原発に反対するなら、せめて推進する人たちにだまされないだけの知性を身につけるべきだ」と主張した。
いわきキリスト教連合震災復興対策ネットワーク委員長を務める住吉氏は、「福島第一原発事故と向き合って――原発事故がもたらしたもの」と題して、震災後のいわき市のようすを報告。家族の死や離散を経験した人たちの悲しみはまだ癒されていないと述べ、若い人たちの県外流出を「福島の未来においてきわめて重大な問題」と指摘した。
また、原発周辺の人々の帰宅できない絶望感は深刻な問題だとし、「もし将来帰ることができても、子どもや孫は帰らない。やがて年配者がいなくなれば、そこはゴーストタウン化する」と危機感を募らせた。さらに今回の原発事故が、人間だけでなく、家畜やペットの生きる権利を奪ったことも問題視。「教会が真に現実的解決を見出し、希望を与えていくことができるのか」と問い、「共生」をキーワードに掲げて、「地域の方々と共に生きる。これがキリスト者、教会の使命だと思う」と結んだ。
「日本キリスト教会と脱原発の理論」と題して発題した上山氏は、日本キリスト教会大会常置委員会が2月に発表した「原子力発電についての私たちの見解」に触れ、教会内で出される「慎重であるべきだ」とする二つの代表的な意見に対し、個人的な見解を述べた。
「教会には原発や電力会社で働いている人もいる。その人たちの思いを考えたのか」という意見に対しては、「福島事故で高濃度の汚染に侵された人たち、今後その影響が出ることが明らかな人たち、放射能汚染によって家を追われて帰宅することが困難になっている人たち、それらの人たちを目の前にしてその言葉を語ることができるのか」と問い、福島からの距離によって問題に対する温度差が違うことを指摘。
「これまでこのような社会的・科学的問題について教会として発言して来なかったのに、なぜ突然、唐突にこのようなものを出したのか。もっと議論しあった後でも良かったのではないか」との意見については、「今、原発の是非についてものを言わないということは、決して中立の立場を取っているわけではなく、原発についてこれまで通り続けたいと思っている人たちにとって都合のいい立場を取っていることになる」と主張した。
最後に渡辺信夫氏は、「3月11日以来、権力を持っている者のうそがよく見えるようになってきた。権力を持っている側から何か言われたら、『本当だろうか?』と考えるようになった。これは日本人のかなり多くの人々の中に出てきた新しい知恵だと思う。このことで今、教会が問われている。教会が言っていることが『本当か?』と言われている」と呼びかけた。
渡辺和人氏は「原発はすぐにでもなくした方がよい」と強調。「実際に原発なしで過ごしてきた期間があるのだから、それで何とかやってみようという意思が全然感じられない」と述べ、「万一電力が足りないとしても、足りないなら、足りないなりの生活をすればよい」と訴えた。