「ホスピス医療の現場から」山形謙二氏講演 終末期でも信仰持ち積極的に 2012年11月3日

〝その人らしく〟生きること支える 聖学院大学総合研究所カウンセリング研究センター主催

 神戸アドベンチスト病院院長の山形謙二氏(=写真)が10月19日、「スピリチュアルケア――ホスピス医療の現場から」と題して聖学院大学(埼玉県上尾市)で講演した。同大学総合研究所カウンセリング研究センター内のスピリチュアル・ケア研究室(窪寺俊之室長)が主催したもので、病気の家族を持つ人や医療関係者、ホスピスでボランティアを行う人など、約60人が参加した。

 山形氏はWHOの定義を引用し、「緩和ケア」とは、「生命を脅かす病気に伴う諸問題に直面している患者とその家族の生命の質(QOL)を高める取り組み」であり、身体的、精神的、社会的、霊的・実存的側面から人間を全人的存在として扱い、関わっていくことだと説明した。

 また、「失望・落胆のただ中にあっても、苦難に意味を与え、そして希望を見出すための助けとなる」のがスピリチュアリティーだと述べ、スピリチュアルケアには、患者に対する医師の全身全霊をかけた献身が必要であると強調した。

 その上で、スピリチュアルケアの課題として「希望の喪失(失望)」「意味の喪失(虚無感)」「尊厳の喪失(自己卑下)」「関係性の喪失(孤独)」の四つを提示。患者の実例を紹介ながら、患者は希望に支えられて生きていること、死を前にしても人生には意味があると感じることが必要であること、意味のある存在・かけがえのない存在であるとケアの中で実感できることが重要であること、死を前にしても周りから愛を持って支えられていると感じることで孤独が癒されることなどを解説した。

 さらに、5番目の課題として「新しい人生への目覚め」を挙げ、苦しい経験をすることで、それまでの価値観が壊され、新しい意味と目的に目覚めることがあると主張。「病気が進んでくると病気に圧倒されて、運命にもてあそばれているような感じがする。しかし信仰によってそれを神に委ねる時に、神がわれわれの人生全体を支配し導いておられると知ることができるし、終末期にあっても信仰を持って積極的に生きることができる」と語った。

 最後に、「人生を終えるにあたり、人はどこかで区切りをつける必要がある」とし、死にゆく者とその家族にとって別れの時が重要であり、患者の別れの挨拶を家族は正面から受け入れることが大切だと強調。「かけがえのない一人ひとりの患者さんが、その人らしく生きることを支えていく。それが本当の意味でのホスピスのあり方であると思う」と述べ、「良い死」とは「本人・家族が満足し納得できる死」であり、それは家族・医療者が一緒になって育て創り上げていくものだと主張した。

 司会の窪寺氏による「今の医学のレベルでは、何%くらいの肉体的なペイン(痛み)が薬で取れるのか」との質問に対しては、「ほとんどの痛みが取れると思う。完全に取れなくてもかなりコントロールできる。ホスピスにおいて一番難しいのは、『呼吸苦』と『全身倦怠感』の二つ。ある程度薬で軽減はできるが、完全に解決できない」と応答した。

     

 山形氏は1992年、神戸アドベンチスト病院に兵庫県下初のホスピス病棟を開設し、緩和医療に携わってきた。『主よ、み国を!』(福音社、1995年)、『人間らしく死ぬということ』(海竜社、1996年)などの著書がある。

 キリスト新聞社から出版された著書『隠されたる神――苦難の意味』(1987年、新装版2007年)、『負わされた十字架――逆境の中で』(2009年)、『いのちをみつめて――医療と福音』(2010年)では、病気や死に直面している人々との関わりの中から、医師として、信仰者として問われ続けてきた、苦しみの意味、生きる意味をテーマに、教会や病院で行った説教・講話をまとめている。

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