神秘的な魅力持つロマネスク美術 「人間と神との意思疎通を表現」 オラニェタ氏がスペインから初来日 2014年1月25日
11~12世紀、西ヨーロッパで展開したキリスト教美術「ロマネスク美術」。その魅力を伝える講演会「ロマネスク美術――時代の美術を理解するための鍵」が12月2日、東京・六本木のスペイン大使館で開催された。「日本スペイン交流400周年」記念事業の一環。講師としてスペインから来日したフアン・アントニオ・オラニェタ・モリーナ氏(ロマネスク友の会会長)が講演に先立ち、本紙にロマネスク美術の魅力を語った(通訳・竹山克則氏=日本貿易会)。
2005年に発足したスペイン最大のロマネスク組織「ロマネスク友の会」(本部=マドリッド、会員数約950人)の会長を務めるオラニェタ氏。ロマネスク美術の魅力として、第一に「自然との関わり」を挙げ、「数多くの教会が、人里離れた山の中など、自然との関わりがあるところに立地しています」と指摘。
また、「教会や修道院を訪れる方に、静謐な雰囲気と心の平安を与えることがもう一つの魅力」とも話した。象徴を用いた知的な美術という面が、他の美術とは異なる点だと指摘する。
子どものころから美術館に通い、バロック、現代美術、中世美術などに興味を持つ中で、特にロマネスクの神秘的な面に惹かれ、追い続けるようになったという。「今日の西洋社会はあまりにも表層的。その点、ロマネスク美術には深みがあり、いろいろなことを教えてくれます」。自身は教派・教会には属していないが、ロマネスク美術には精神的な深さがあり、のめり込んでいったのだという。
日本を訪れるのは初めてで、翌日には関西外国語大学(大阪府枚方市)でも講演。9日間の滞在期間中に訪問する奈良・京都について、「歴史と文化の類似性・共通性を感じられると思い、関心を持っています」と話し、「(講演を通して)ロマネスク美術の魅力を伝えたい。広くロマネスク美術を見て、楽しんでいただきたい」と本紙に語った。
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講演では、スライドを使ってロマネスク美術について解説。「(ロマネスク美術には)魂の救済を渇望するメッセージと、人間の神との意思疎通が表現されていたと思います。死を恐れる人間と神性との関連性を求めるということで、教会や修道院の立地している地理的な条件は、人里離れ、山の中であり、この情景が一体となってロマネスク美術は魅力的な展開をしていると思います。これが西欧世界の文化の基礎であると信じています」と結んだ。
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大使館での講演会は、「スペイン・ロマネスク・アカデミー(日本)」(AREJ、勝峰昭理事長)の協賛で開催された。
AREJは、ロマネスク美術の研究組織として、ロマネスク友の会の支援を受けて2013年2月、6人の創立者によって設立。ロマネスク美術を広めるために美術講座などを開催している。
勝峰氏は、「この10カ月間で82人が入会しました。ボランティアの集まりですが、将来数百人の規模になってきたときに、組織を整えてもっと活躍していきたい」と抱負を語った。
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会場では、AREJ理事・香取慶子氏の木版画展「スペイン・ロマネスクの世界」も同時開催された。
ジュエリー・デザイナーとして活動していた同氏は、2000年から毎年スペイン各地のロマネスク美術を訪ねて、写真や挿画などの制作活動を続けている。これまでに訪問した教会・修道院は250カ所に及ぶ。09年に木版画家の中田真央氏に師事し、木版画の制作を始めた。ロマネスク美術を現代木版画技法で表現する手法は世界初で、個展の開催は今回が初めて。
香取氏の作品についてオラニェタ氏は、「ロマネスク美術のエッセンスをよく捉えています。東洋の文化と西洋の文化の懸け橋、現在と過去をつなぐ懸け橋であり、非常に神秘的な魅力を持っています」と評価した。