活きた説教語る バーバラ・B・テイラー 本邦初訳 2014年5月10日

対談『天国の種――マタイによる福音書を歩いて』 訳者 平野克己✖古本みさ

 米国で最も定評のある説教者の一人といわれる聖公会司祭バーバラ・ブラウン・テイラー。著述家でもあるテイラーの説教集『天の国の種――マタイによる福音書を歩いて』(キリスト新聞社)が本邦初訳として発行された。聴く人の心の中に生き続けると言われるテイラーの説教。その魅力、核心を訳者の平野克己、古本みさ両氏に語ってもらった(対談の全容は今月発行の『ミニストリー』2014年春号に掲載)。

    ◇

――バーバラ・ブラウン・テイラーを翻訳しようとされた理由を教えてください

平野 アメリカで説教学を学んで以来10年ほど、この説教者を日本に紹介したいと思ってきました。米国の説教学は刺激的で、なかでも最良のモデルがこのバーバラ・ブラウン・テイラーです。私自身もデューク大学の礼拝堂で彼女の説教を聞き、深く心を打たれました。今までブックレットや雑誌で小口には彼女のことを紹介してきましたが、翻訳はまだで、そうこうしていた時に古本さんから連絡をいただいたのです。

古本 私は『説教塾ブックレット』を読んだ友人に薦められたのがそもそものきっかけです。彼女の説教を読んでいくうちに、本当に虜になって一気に読みきりました。そして、これはぜひとも訳さなければと思い、平野先生にお電話をしたのです。「どなたかもう訳していますか?」と。そうしたら平野先生は、ちょうど訳したいと思っていたところなので、一緒にやりましょう、ということになりました。翻訳には4年半ほどかかりましたが、訳を直していただくなかで、平野先生から、説教とは何か、バーバラの説教とはどのようなものなのか、というところからご指導いただきました。

平野 バーバラは小説家志望でした。でもなかなか売れなくて、そのうちに説教学者フレッド・クラドックと出会い、説教者としての道を歩み始めたのです。バーバラの説教のセンテンスには、どこにも全く無駄がありません。いろいろな意図をもったセンテンスとパラグラフを散りばめながら、説教を構成しています。説教者には、簡単なメモを手に説教をする人もいますし、完全原稿を用意して説教をする人もいますが、バーバラは完全原稿で説教するタイプです。たいていは、完全原稿の説教者は言葉が生きていない。書き言葉と話し言葉はちがうので、言葉のハーモニーやリズムが生かされず、ときめきのないものになってしまうことがあります。しかし、彼女は違うのです。

    (左から平野氏、古本氏)

 

――バーバラ・ブラウン・テイラーの説教の特色はどういったところにあるのでしょうか

古本 一言では言いがたいものですが、あえて言うなら「説教が生きている」という感じでしょうか。伝えられる言葉が説教者と聴き手のあいだを何度も往復して、説教者の背後におられる神様と会衆とのあいだの橋渡しになるのです。会衆の思いを神様にぶつけ、また神様から会衆への応答をバーバラの口を通してするという、行ったり来たりが何度もある。いわゆるレクチャーではなく、言葉が説教者と会衆とのあいだをぐるぐる回っているような、動的なイメージがあります。会衆が素朴に疑問に思うことを、バーバラが代わりに神様に聞いてくれる。その答えが、会衆の共感できる彼女自身のいろいろな経験や話をとおして聴き手のなかに返ってきます。ですから会衆は説教者に「教えられた」という気はせず、自らのイマジネーションから答えを見出したというように感じます。

平野 私たち説教者の多くは、聖書の意味を尋ね求めることに、説教準備の9割を費やします。だから、説教の大半が、この聖書箇所はどういう意味かという解説の言葉になってしまう。バーバラは聖書釈義をきちんとやった上で、それをどう伝えたらいいかにかなり時間をかけています。聖書を読んでその結果報告でおしまいではないのです。

 

――神学校でこれをテキストとして学ぼうとする人へのアドバイスは

平野 聖書について解説することが説教ではないのです。どうも私たちは、一週間分の勉強結果の報告をすることが説教だと思っているところがある。いまだに説教では自分の話をしてはいけない、「私は」という言葉を使ってはいけない、聖書に書いてないことを言ってはいけない、と教えられます。でも、聖書は目の前の人と対話しようとしている書物です。まだ日本では、私たちよりも二代上くらいの世代から聞いたとおりの説教をしていますが、もう現代では通用しないのではないでしょうか。

古本 彼女の説教を読むと、聖書がものすごく身近になりますよね。二千年前のお話なのに、あっ!今ここにあることと同じだ!ということがわかるように、聖書の物語がいろいろな形で語り直されています。

平野 バーバラの説教は、説教する人だけじゃなくて、聞く人もいろいろなことを考えさせられる。これを通して、イエス様ともう一度出会えるのではないでしょうか。これは説教者の教科書という以上に、説教を読むことで主イエスと新鮮に出会える類まれな説教だと思います。

古本 本当にボキャブラリーも豊富です。何か良い訳語がないですかね、というやりとりが平野先生との間で何回もあり、苦労もしましたが楽しかったです。いま連続テレビ小説で『花子とアン』をやっています。『赤毛のアン』を訳した村岡花子さんのお話。原作者のモンゴメリーも想像力豊かですが、それを訳した花子も豊かな想像力をもっていました。バーバラも子供の頃から本を読むのが大好きな文学少女で、暇さえあれば空想していたようです。彼女の説教にも、そうしたなかで培われてきたものが生かされているのでしょうね。

平野 説教者も表現者なのです。言葉でもって表現する。それは聴き手に届けるためであり、求道者を洗礼に導くためです。そのときに、紋切り型の言葉ではいけません。「イエス・キリストの十字架の血をもって私たちは贖われた」とか、「あなたと共に神はおられる、あなたは愛されています」とかね。通俗的な文章は何も伝えられません。ですから、言葉のプロである表現者として、いつも言葉を探していることが大切なのではないかなと思っています。

 

バーバラ・ブラウン・テイラー 1951年生まれ。エモリー大学、イェール大学神学大学院を卒業後、米国聖公会司祭叙任、いくつかの教会で牧師を務めた。現在、ジョージア州のピードモント・カレッジの教授。The Preaching Life(『説教する生活』)、Bread of Angels(『天使のパン』)、An Altar in the World(『この世界のただ中にある祭壇』)など、13冊の書物を刊行。

ふるもと・みさ 1972年兵庫県生まれ。米国マウントホリオーク大学卒業。イェール大学神学大学院修士課程修了。日本聖公会京都教区執事。現在、平安女学院中高チャプレン・聖書科講師。二児の母。

ひらの・かつき 1962年東京都生まれ。国際基督教大学卒業。東京神学大学大学院修士課程修了。現在、日基教団代田教会牧師。説教塾全国委員長、季刊『Ministry(ミニストリー)』編集主幹。

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