日本初のオラトリオ『ヨブ』40年ぶりに明治学院礼拝堂で演奏 2015年1月31日
讃美歌「馬槽のなかに」の作曲者として知られる教会音楽家の安部正義氏(1891~1974)=写真左(提供はいずれも明治学院歴史資料館)=による日本最初のオラトリオ『ヨブ』が2月15日、40年ぶりに明治学院白金キャンパス(東京都港区)の明治学院礼拝堂で演奏される。
オラトリオとは、主に声楽と管弦楽で構成される宗教的な題材に基づく音楽作品。ドイツのバッハやメンデルスゾーン、イギリスのヘンデルやエルガーなどの作品が知られている。
安部氏が1965年に基督教音楽学校(現・キリスト教音楽院)から出版したオラトリオ『ヨブ』は、旧約聖書の「ヨブ記」を題材にした独唱・合唱・管弦楽からなる約2時間の大作で、日本で最初のオラトリオとされる。安部氏は東北学院を卒業後、1913年から26年まで米国に留学して作曲学や声楽などを学び、帰国後は28年から45年までの17年間、明治学院高等学部教授として音楽の指導にあたった。30年から『ヨブ』の作曲を始め、45年頃にほぼ完成していたという。31年に発表された讃美歌「馬槽のなかに」は、『ヨブ』のために作曲されたコラール楽曲の旋律をもとにしており、『ヨブ』の中で各所に聴こえる。
『ヨブ』作曲の背景には、安部氏の幼少期における北海道開拓の過酷な生活や、留学中の苦学があったという。出版譜初版の「はしがき」で安部氏は、ヨブの苦しみと比較するならば自身の苦しみは物の数にもならないとし、ヨブの信仰の万分の一でも持てるようにと願い、その信仰を音楽に表現することを決意したと記している。
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『ヨブ』の全曲初演は1967年、明治学院礼拝堂を会場に池宮英才氏の指揮、明治学院大学グリークラブの合唱、園部順夫氏のオルガン伴奏で行われた。69年には東京文化会館でフルオーケストラによる演奏も行われた。また同年明治学院礼拝堂で同大学グリークラブによる再演が行われたが、安部氏を追悼する75年の同所での演奏を最後に、現在まで『ヨブ』が演奏されることはなかった。
『明治学院百五十年史』の編集委員として『ヨブ』に関する資料を調査した加藤拓未氏(明治学院歴史資料館研究調査員)は、「現代音楽が演奏の機会を得ることはかなり限られている。その状況を鑑みると、『ヨブ』の全曲演奏が4回も果たされたことは恵まれている」と語る。
2013年に同学院が創立150年を迎え、『明治学院百五十年史』を編纂するにあたり、文化を発信してきた同学院として、「音楽」の分野についても記録に残そうと、加藤氏が09年から『ヨブ』に関する調査を開始。安部氏による自筆総譜=写真右=や公演のオープンリールテープなど、次々と資料を発見し、その成果を『明治学院歴史資料館資料集【第9集】』(2012年)にまとめた。
この資料集には、同研究調査員の手代木俊一氏による安部正義評伝、神戸女学院大学学長の飯謙氏による『ヨブ』の台本の神学的検討、西南学院音楽主事の安積道也氏による『ヨブ』の楽曲分析のほか、出版譜の復刻や『ヨブ』初演のCDも収められている。
加藤氏はまた、「音楽作品は、実際に音として鳴り響き、それが人々に聴かれるとき、初めて成立する芸術。つまり、時間の経過とともに消えていく瞬間芸術である。だからこそ、音にしなければ本当の意味で評価したことにはならない」と考え、40年ぶりに演奏会の開催を企画した。
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今回の演奏会は、作曲家の堀内貴晃氏による「室内楽バージョン」で演奏される。オリジナルの編成では、フルオーケストラが伴奏を担うが、その規模が大きすぎて礼拝堂では演奏できないため、このような措置が取られた。「室内楽で演奏できるように編曲したことで、予算的に演奏の企画が立てやすくなったことから、今後明治学院の遺産として後世に伝えられるのではないか」と加藤氏は言う。
『ヨブ』の著作権は同学院歴史資料館が管理しており、新しい企画があれば相談してほしいと話している。「広く音楽愛好家にまで浸透し、他の方による再演にもつながってほしい」。
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演奏会は2月15日(日)午後3時開演。主催は明治学院歴史資料館。出演は、安積道也(指揮)、柳沢亜紀(ソプラノ)、穴澤ゆう子(アルト)、櫻田亮(テノール)、萩原潤(バリトン)、山田大智(バス)ほか。入場無料。申し込みはファックスまたは往復はがきで(定員になり次第締め切り)。ファックスの場合は、同資料館ホームページ(http://shiryokan.meijigakuin.jp/)より専用用紙を印刷すること。往復はがきの場合は、「往信用」に氏名・電話番号・住所・コンサートの情報を何で知ったかを記入し、「返信用」は未記入で、〒108‐8636 東京都港区白金台1‐2‐37〔歴史資料館コンサート申込み係〕宛に送る。問い合わせは同資料館(℡03・5421・5170)まで。