WCC総幹事初来日 オラフ・フィクセ・トゥベイト氏 〝正義と平和を証しする者として〟 2015年1月31
第4回9条世界宗教者会議の開催に合わせ、12月3~10日の日程で初来日を果たした世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トゥベイト総幹事は12月9日、日本聖公会管区事務所(東京都新宿区)で記者会見を行い、キリスト教メディア各社の取材に応じた。ノルウェー教会(ルター派)の牧師でもある同氏は、かつて学校で、日本には戦争を禁ずる憲法があると習ったという。エキュメニズムの第一線で、世界各国のキリスト者たちと交流を続けてきた総幹事の目に、日本はどのように映ったのか。
カトリックとの協働にも手応え
――まずは日本の印象についてうかがいます。
日本という国は、非常に重要な印象深い国だと思いました。来てみて、改めてそう感じました。自然はもとより、人々の表情、食べ物など、すべてが美しい。同時に、とても重要な岐路に来ていると思います。憲法9条を用いることによって、さまざまな紛争を解決するという役目を日本は持っているとお伝えしたいと思います。紛争は武力で解決すべきではありません。なぜなら、争いが泥沼化するだけでなく、それによって一般市民が苦しむからです。
日本は被爆国でありながら、原発事故の被害にもあったという極めて稀な国です。世界中の人々が、核によってどんな人道的リスクを負うことになるかを知るべきです。福島の被災地の方々ともお会いしましたが、被災はまだ終わっていません。政治家を含め、公的機関への信用が失われていることは大きな課題です。
日本もそうですが、世界の教会や団体が、これらの問題において、証しする者として世界に発信していくことが非常に重要だと思います。日本の教会は、規模が小さいと聞いていますが、とても重要な役割を持っています。
――キリスト教以外の宗教者とも対話する「宗教者会議」について。
WCCの役割は、平和と人権の課題をめぐる巡礼と捉えています。キリスト者一人ひとりが、イエス・キリストにあって平和の担い手として働くということです。こうした会議を行うことによって、我々が共に協働できる機会を得られます。当然、平和についての捉え方や内容はそれぞれ違いますが、かと言って一つの宗教の中だけで考えるのではなく、他の宗教者とも内容を理解し共有することには意味があると思います。私たちはキリスト者ですから、キリスト者としての信仰を証しする者として、正義と平和に仕えるということが非常に大事だと考えます。他宗教を含め、他の方々から学ぶことも当然大事です。
――日本の教会の印象と、具体的な期待は?
日本のキリスト者は、世界の中でも、平和のためにすでに大きく貢献していると思います。そしてさまざまな人的資源と信仰を持ち合わせている。それは日本の国にとっても大きな恵みだと思います。日曜日に訪問した日本聖公会奈良基督教会(奈良市登大路町)で洗礼者ヨハネに関する説教をしましたが、「良き知らせ」はあらゆる人にとって「良き知らせ」なのです。この事実を日本の教会は慎み深く、真剣にそれに取り組んでいると思っております。
教会へ期待することは、若い方にもっと注意を向けてほしい。とても重要な宣教の働きですから、教会はより多くの人々に伝えるべきだと思います。
――カトリック教会との協働についてはどのようにお考えですか?
カトリック河原町教会(京都市中京区)でエキュメニカルな「平和の祈りの集い」に参列したのですが、そこでさまざまな教派の指導者の方々とご一緒し、とても良い印象を受けました。これは協働できるのではないかという確信を持ちました。
教皇フランシスコとも会ってやり取りをしたのですが、一緒に何ができるかについて話し合っています。礼拝や聖餐式をすべて共にすることはできないけれども、継続して一致を求めていくようにしたいと思います。
誰かがどこかで声を上げなければ
――WCCの非加盟教会には何を求めますか?
WCCに加盟しているかどうかよりも、そのコミュニティが、正義と平和、人権の問題に対してどう関わっているかということが重要です。もう一つは教会の違いを見るのではなく、諸教派が持つさまざまなムーブメントが新しい方法を見出してくれればと思っています。巡礼に例えれば、すべてを持っては歩けない。重い荷物を背負って行こうとするのではなく、もう少し荷を軽くして、オープンな形で巡礼するようなイメージで、互いに協議できるのではないかと思っています。
わたしはノルウェー出身ですが、隣のスウェーデン、フィンランド、デンマークと、非核武装地帯に関して共に歩んでいます。わたし自身は冷戦時代に生まれていますので、常に核が使われるかもしれないという危機感を経験しながら、子どものころを過ごしました。いずれにせよ誰かがどこかで立ち上がって声を上げ、行動を始めなければいけないと思います。核兵器はないほうがいいに決まっているんです。ですから、この日本からまず声を上げていくことは、非常に大切だと思います。
――ありがとうございました。
オラフ・フィクセ・トゥベイト 1960年、ノルウェー生まれ。ルター派のノルウェー教会に所属し、教会の牧師を経た後、ノルウェー教会の教理委員会幹事(1999~2000年)、教会と国家関係の幹事(01~02年)、ノルウェー教会のエキュメニカル・国際関係協議会総幹事(02~09年)を歴任。WCCでは、信仰職制委員、パレスチナ―イスラエル関係のエキュメニカル・フォーラム共同議長などを歴任し、2010年1月に第7代WCC総幹事に就任。著書に、『キリストの十字架におけるキリスト者の連帯』(WCC)など。