「ブラジル・プロテスタント教会の急成長をもたらした聖書協会の働き」一般財団法人日本聖書協会総主事 渡部信 2015年3月21日
プロテスタント教会の成長著しいブラジルを訪問した渡部信氏に寄稿してもらった。
2014年FIFAサッカーW杯に続き、16年夏季オリンピック・パラリンピックのホスト国を務めるブラジル。南北アメリカ大陸で唯一のポルトガル語圏の国であり、世界最大のポルトガル語使用人口(約2千万人)を擁する国は、ロシア、インド、中国、南アフリカと並び「BRICS」と呼ばれる新興経済国群の一角をなす。世界第7位の経済規模を誇る一方、国連開発計画の統計によると、「10%の富裕層が国民所得の約50%を握り、10%の最貧層が得ている所得はうち1%未満」と言われ、国民の経済格差は依然として大きい。ブラジルのカトリックの特徴は、アフリカの民間信仰(ウンバンダやカンドンブレ)や、南米土着の宗教との混淆が強く、ブラジル独自の聖人崇拝も数多い。国民の多数がカトリックだが、近年はペンテコステ派やネオペンテコステ派の勢いが著しく、昨今ではプロテスタントが人口の23%を占めるようになった(カトリック教会は90%から65%へと教勢は下降)。福音派、WCCに加盟する伝統的な教会、更にカトリック内部もペンテコステ派の影響を大きく受け、礼拝は全体的にカリスマティックになってきている。南半球では真夏の2月、サンパウロにあるブラジル聖書協会本部を訪問し、プロテスタント教会の急成長をもたらした要因を伺った。
ブラジル聖書協会は、日本聖書協会と時期を同じく
1948年に、英国聖書協会とアメリカ聖書協会の支援を受け設立された。サンパウロ市の上・中流層が移り住み形成された新興住宅地のバルエリ市に、ブラジル国内だけでなく世界の聖書協会からの聖書印刷受注を請け負う巨大な印刷工場が95年に建設された。聖書協会世界連盟(UBS)によると、14年に印刷され頒布された聖書総数は約800万冊。これは驚異的な数字で、人口12億人の中国でさえ、年間200万冊を超える程度である。その他、海外向け聖書は200万冊ほど印刷されている。工場設立から20年間で聖書印刷1億冊を突破した。その規模は今や中国を追い抜くまでになった。書店を覗くと、伝道用聖書から高級聖書まで購買層に応じて取り揃えてあり、ルディ・ジンマー総主事によると、売れ筋は教会用聖書の他、テーマ別選集(金銭、愛、犯罪、癒し)や、スタディ聖書(牧師用、家族用、父親用、母親用)とのことであった。
また、世界の聖書協会の印刷工場としての役割だけでなく、ブラジル聖書協会は国内の貧困層のニーズが考慮されたプロジェクトも展開中だ。62年より立ち上げた「Light in Brazil(ブラジルの光)」は、ボートでアマゾン川流域に向かい、住民に対する精神的・医療的・社会的ケアを行うとともに聖書も頒布するホリスティックなプログラムとなっており、今ではその地域を広げ、ブラジル北東部、南部、南東部でも活動している。このようなソーシャル・インクルージョン活動(社会的包摂=貧困層など社会から取り残されつつある人々を取り込む活動)はいずれも昨年だけで6万人近くの生活改善・精神衛生上の効果をもたらし、国からの評価も高い。その結果、設備投資面で税の優遇措置も受けているという。また、聖書を教材に利用した依存症患者回復プログラムのリーダー育成、自然災害時のリーダー育成など、多方面での人材育成セミナーも積極的に開催している。同総主事は、『人生を変える御言葉の種を蒔く』をスローガンに掲げ、「今後も国内・国外の聖書印刷をけん引し、一人一人の変容と人格を開花させる手段として聖書のメッセージの拡散をより促進していきたい」と語った。
日本聖書協会も、お求めやすい価格で聖書を届けられるよう、聖書製作技術はインフラ面、人材面共に水準を満たしているブラジル聖書協会と協調し、来年度は新刊の製作に取り組む方向で調整している。引き続きご支援を広く賜りたい。
(写真)250人のスタッフが24時間3交代制で印刷業務に従事。(バルエリ市に1995年建設された印刷工場)