〝大切なのは忘れないこと〟アルメニア共和国大使インタビュー 2015年12月25日
トルコからアルメニアへ逃げ延びた祖父を持つ駐日アルメニア共和国大使グラント・ポゴシャン氏に、映画『消えた声が、その名を呼ぶ』をめぐって話を聞いた。
――大使ご自身のお祖父様も、1915年のジェノサイドによって故郷を追われた一人だと聞いています。この映画の中で特に観てほしいポイントはありますか。
アルメニア共和国の現人口は約300万、これに対しアルメニア国外の世界各地には約700万のアルメニア人が暮らしています。そのほぼすべてが、家族の系譜をたどれば誰かしら虐殺事件の犠牲者になっている。だからこの映画は主人公一人の話として語られるが、その背景にはたくさんの家族の物語が潜んでいます。できるだけ注意深く作品全体を観て、あなたの心に何が残るかをしっかり感じとってほしい。
――トルコ系の監督がトルコ本国では今もタブー視される事件を扱ったことが大々的に報じられる一方で、この作品の扱う主題はもっと普遍的な愛の強さであるように思います。
まったくその通りです。アルメニア人の虐殺という舞台を使い、家族の生存を知って人間のコアに火が灯りなおす物語を描いている。これはそういう普遍的な物語です。そしてこうしたことは、どこでもどの時代でも起こるということ。今日のシリア情勢や、パリの同時多発テロを見ても、これが過ぎた話ではなく現在の問題でもあることは明らかです。ですから皆さんにも、遠いところでかわいそうなことが起きたということではなく、もっと身近な問題と受け止めてもらえたらと願います。
――1915年の事件後、当時の在日アルメニア総領事もアルメニア難民の亡命に一役買ったそうですね。駐日大使の立場から、この作品を通して日本人に伝えたいメッセージはありますか?
ジェノサイドの後、「横浜のダイアナ」と呼ばれる、当時としては国際的にも珍しい女性の総領事が任命されました。彼女はロシアから日本経由でアメリカなどへ亡命するアルメニア難民のビザ発給を手助けしました。渋沢栄一など日本の経済界にもこれを助ける動きがあったと聞きます。
実はいま頻繁に報じられるシリア難民の中には、アルメニア系住民も数多く含まれています。悲劇は尽きませんが、しかしヒトラーの思惑とは裏腹に大戦後力を増したユダヤ人社会を見てもわかるように、苦難に遭えば遭うほど、人は強くなるものです。大切なのは、忘れないことです。この意味でも、映画や本に残されることは重要です。わたしたちは今後もアルメニア文化を紹介するイベントを諸々計画していますので、『消えた声が、その名を呼ぶ』と併せ、ぜひ足をお運びください。