絵本で伝える「隣人愛のある社会」 松居友氏がミンダナオ島での活動報告 2016年9月24日

 フィリピン・ミンダナオ島の政府軍と反政府勢力との紛争が絶えない地域の村で、絵本の読み聞かせ、就学支援、医療支援、避難民救援活動、植林活動などを行っている「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)。その館長であり、絵本作家、児童文学者の松居友氏が文章を担当した絵本『サンパギータのくびかざり』(今人舎、2015年=写真右)の原画展が8月24日~9月8日、教文館(東京都中央区)で開催された。3日には、松居氏の講演会=写真左下=と同書の絵を担当した画家のボン・ペレス氏(フィリピン女子大学教授)のサイン会が行われ、約30人が参加した(今人舎主催)。

 1997年からミンダナオ島を定期的に訪れ、子どもたちに絵本の読み聞かせを行っていた松居氏。転機となったのは2000年に同地で起きたモロ(イスラム教徒となった先住民)と政府軍の戦闘だという。これにより10万人の犠牲者と120万人の避難民が発生。目の前で苦しんでいる子どもを病院に連れて行きたくても、「NGOに属していないから」と拒否された。

 同氏は島に残り、笑顔を失った子どもたちに絵本の読み聞かせをしようと、03年にMCLを設立した。読み聞かせ中心の活動を行っているうちに、子どもたちにとって必要なものが見えてきた。それは教育、医療、治水、差別や偏見をなくすことだったという。

 MCLでは就学支援も行っており、現在の奨学生はおよそ540人。その中の200人ほどに食事を提供している。本部の寄宿舎にはキリスト教徒、イスラム教徒、先住民の子ども約80人が暮らしている。同団体の活動資金は、日本からの支援と寄付で成り立っている。

 「子どもたちは親に捨てられたり、売られたりと悲しい経験をしているが、とても明るい。死を考えなかった理由を聞くと、『友達がいるから』と答えた。それを聞き、生きる力とは何だろうと思った」と振り返った松居氏。「経済的に豊かな日本の若者たちの自殺率の高さが心配。現地に日本の引きこもりの若者を呼ぶと、顔つきが明るくなっていく」と語った。

 今回の絵本は、イスラム地域の子どもたちに向けて英語版、タガログ語版で無料配布されたものの日本語版。

 そのあらすじは、貧しい集落に住む少女が、たった1人の家族である母親を病気で亡くす。絶望し教会の前で夜を明かす少女の前に母親の魂が現れ、これからもずっと一緒にいると告げる。翌朝少女を心配した集落の人々が一緒に暮らそうと少女を励まし、皆で集落に帰る、というもの。物語全体に隣人愛が描かれている。

 同氏はこの作品について「クリスチャンの世界」だと説明。「死を扱ったのは、死は終わりではなく、それを体験しどう生きていくかが大切だから。死を越えた愛は存在する」とし、「大切なことは隣人愛のある社会。『貧しい人たちは幸いである』の聖句の通り、MCLのある地域は貧しいが、隣人愛に溢れている」と語った。

 また映像を交えながら、紛争が勃発する現地のようすを解説。40年にわたり紛争が繰り返されており、米軍と政府によるテロリスト掃討作戦が行われた02年には、120万人もの難民が出たという。「現地のクリスチャンとイスラム教の人々は仲が良いが、米軍と政府軍が誘拐や爆発などを起こし人々の間に憎しみを生じさせ、戦争は作られている。現地の人や子どもたちは贅沢を望んでいるわけではない。彼らはただ、食べられて、医療と教育を受けられて、平和に暮らしたいだけ」と訴えた。

 また、ミンダナオ島のジャングルが6%にまで減った理由については、日本が自国の自然保護のために、ミンダナオの良質のマホガニーを根こそぎ持って行ったからだと説明。同氏は2012年から、ゴムの木とカカオの木の植樹を始めた。

 同年、現地マノボ族の「酋長」に任命された同氏。親のない子の面倒を見たり、医者にかからせたりするのを見て、それこそが「酋長の仕事」だと任命されたという。

 同氏が襲名した名前は「アオコイ・マオガゴン」。「心から人を助けるわれらの友」という意。
 「世界中のリーダーがそれを仕事にしてほしい。そうすれば世界から戦争はなくなる」と締めくくった。

     ◆

 9月23~24日、東京ビッグサイト西2ホール(東京都江東区)で行われる「第23回東京国際ブックフェア」の今人舎ブースで同書の原画展が開催される(午前10時~午後6時、入場には招待券が必要)。また、24日の午後1時半からは、松居氏の同書読み聞かせと、ペレス氏の絵つきサイン会が開かれる。問い合わせは今人舎(℡042・575・8888)まで。

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