仙台白百合大「岩田靖夫文庫」開設 被災地での思索 蔵書約3千冊を寄贈 2017年3月11日

 2015年1月に逝去した岩田靖夫氏(仙台白百合女子大学名誉教授)の蔵書約3千冊を収める「岩田靖夫文庫」の開所式が2月22日、同大学カトリック研究所(仙台市泉区)で開催された。同所長の加藤美紀氏(シャルトル聖パウロ修道会)による司会で遺族らのあいさつが行われ、関係者ら約40人が出席した。

 会の冒頭、同大学学長の牛渡淳氏は「書架を見れば、その人柄がわかる」と述べた。同文庫には岩田氏の専門であるソクラテス、アリストテレスなどの古代ギリシア哲学からハイデガー、レヴィナスなどの現代哲学を中心に、キリスト教思想、および親鸞、道元などの仏教思想を含む宗教関係の専門書が収められている。これらの蔵書には丹念な書き込み、線引きがなされたものも多い。

 ドミニコ会司祭の原田雅樹氏(清泉女子大学教授)は、文化功労者でもあった岩田氏の思想的足跡を紹介。アリストテレス研究から「共に生きる」こと、そしてプラトン研究から「よく生きる」ことを追究してその思索を進めた岩田氏。米国でロールズと、欧州でレヴィナスと対話しながら、前者の倫理学にアリストテレスの後継を見出し、後者に「限界状況での〝他者〟による倫理」を見出した。さらにジャン・バニエの霊性に深く学び、そして「3・11」を体験した。間際まで津波が迫った被災地の自宅にとどまり、さらに思索を深めた。その成果は『極限の事態と人間の生の意味――大災害の体験から』(筑摩書房)にまとめられている。

 同大学非常勤講師の川上直哉氏(東北ヘルプ事務局長)は、文庫開設の意義について「大震災、原発事故後の日本社会の歩みに対して、岩田氏が怒りといら立ちを隠さなかった様子が、今でもはっきりと思い出されてくる。命の貴重さを無視し、蹴飛ばすような日常と風化が進む中で、『他者と共に、いかにしてよく生きるのか』を考えたい」と語る。

 仙台白百合女子大学カトリック研究所では、学外の利用者にも開いており、同文庫も広く利用されることを願っているという。

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