〝苦しむ人に信徒もケアを〟 「ステファン・ミニストリー」創設者が来日 2017年6月3日

 病や親しい人との死別、失業などさまざまな苦しみを抱え教会にやって来る人たちのケアを牧師だけでなく、信徒もその働きにあずかれるよう育成する「ステファン・ミニストリー」(本部=米ミズーリ州セントルイス)。その創設者で代表を務める精神科医のケネス・ハーグ氏(米国福音ルーテル教会牧師=写真右)がこのほど来日し、5月20日、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で講演を行った。同教会伝道委員会と日本ルーテル神学校デール・パストラル・センターが共催する「デール記念講演」の一環として開催され、約100人が参加した=写真下。

 同ミニストリーは、ハーグ氏が1975年に創設。その後42年間で31カ国に広がり、170の教派、1万2千の教会が同ミニストリーを取り入れた。現在トレーニングを受けた7万人の牧師と教会リーダー、60万人の信徒が困難の中にある人を支える活動を行っている。

 「寄り添い人となる――全信徒祭司の教会」と題して講演した同氏。まずマルティン・ルターの宗教改革により変化したいくつかの事例、それぞれの国の言語による聖書の誕生や、教育の男女平等化、教会音楽への信徒の参加などを紹介。さらに、ルターは「召命」について深い神学を拓いたとし、それは教会だけでなく社会でも神への役割を果たすべきであることと、その教会内外で神の働きを担うのは牧師だけでなく信徒も可能とした「全信徒祭司」だと説明。

 この、すべての信徒に祭司性があるという考えは、キリスト者にとり生活の全領域が神の働きに参与できることだと解説した。

 同氏が立ち上げたステファン・ミニストリーも、この全信徒祭司の考えに基づいている。同氏は「教会とは牧会をするだけでなく、信徒もその働きに整えられること」という神学校での教えを受け、自身もそうするべきだと思ったという。

 最初に牧会したセントルイスの聖ステファノ・ルーテル教会で、三つの大切なニーズを見出したとし、それは苦しみの中にある人は質の高いケアを必要としていること、牧師はこれらの人々をケアするために助けが必要なこと、信徒が教会の牧会に積極的に参与することは信徒にとっても意味深いこと、だったという。

 さらに60~70年代の米国の心理学の分野では、地域の精神保健として、精神科医や臨床心理士だけでなく、他の人たちも病んでいる人をケアできるよう教育をするべきという声が上がっていたとし、牧師と精神科医の両方の考えから、このミニストリーを創設したと語った。

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 74年には教会から9人の信徒を選び、「ステファン・ミニスター」という、教会の内外でケアを行うスタッフの育成を開始。翌75年には、病気により失業した人や、妻を亡くした人などに同ミニスターたちを派遣、彼らに寄り添い心の支えとなってきた。

 同氏は初め、自分が牧会する教会だけでの活動を考えていたが、ミニスターのスタッフに説得され、他の教会にもこのミニストリーを広げることを決意した。

 ミニスター育成には、傾聴方法、苦しみの過程への寄り添い、危機介入方法、鬱に関する学び、看取りなど50時間以上の専門的教育が必要となる。またミニスターたちは、ケア活動で共依存となったり、支援者が重荷になりすぎないよう、報告などのスーパービジョンを定期的に行っている。

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 後半はケネス氏の娘で同ミニストリー講師のアミティー・ハーグ氏が「ステファン・ミニストリーイントロダクション」と題し講演。

 苦しみをもって教会に来た人は、ケアを受けられないと、失望から牧師に対する不信感を募らせたり、教会離れを起こす場合があり、また適切なケアを施せなかった牧師は罪責の念に駆られたり、疲れ果て説教準備に時間を割けなかったりすると指摘。

 ステファン・ミニスターを育成することで、苦しんでいる人にケアができ、牧師の負担も減少、ミニスターたちも苦しんでいる人たちに寄り添うことで、霊的に成長できると同氏は強調、日本での浸透を訴えた。

 最後に、「キリスト者ではない人へのケアの有効性は?」という参加者からの問いに対して、宗教を持っていない人に対してもケアを行っており、彼らに対し宗教を押し付けることはなく、神の愛を表すために寄り添うと回答した。

 日本福音ルーテル東京教会では昨年より同ミニストリーのトレーニングを開始。講演翌日の5月21日には、トレーニングを終えた14人の信徒がケネス氏よりミニスター認定の祝福を受けた。

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