【東アジアのリアル】 「曲がった時代」の未知なるキリスト教世界 松谷曄介 2017年7月11日
キリスト新聞社の創立者・ 賀川豊彦は、かつて「世界のKagawa」として海 外で最もよく知られていた日本人キリスト者だ。1920~30年代、賀川は中国をはじめ東アジア各地にも何度も足を運び、平和と和解を訴えるなど、アジアに対する大きな関心を持っていた。しかし太平洋戦争期、彼は「大東亜共同宣言」(*1)を支持したり『興亜讃美歌』(1943年)に「大東亜共栄圏の歌」を作詞したりなど、彼の東アジアへの関心は、当時 の時流の影響を大きく受けていったように思われる。
とはいえ、彼がそのような「曲がった時代」に、「曲がりなりにも」東アジアに対して大きな関心を持ち、東アジアの諸教会・キリスト者たちと深く関わっていたことは間違いない。 その賀川が戦後すぐに「キリスト 新聞」を創刊してから71年、今回の新装版において新連載「東アジアのリアル~East Asian Perspectives」 が設けられることの歴史的な意味を改めて覚える。もちろん、本紙はこれまでも世界のキリスト教情勢を報じる中で、東アジアのキリスト教の動向も時折、伝えてきた。しかし全 体的に見れば、日本ではキリスト教界の内外を問わず、激変する東アジア諸地域のキリスト教の状況はいまだあまり知られていない。
今回はまず、東アジア諸地域の統 計数字から見てみよう。
日本とその近隣の4地域を比較すると、キリスト教が総人口に占める 割合が、韓国、香港、台湾、中国、 日本の順となっており、特に韓国と香港が突出していることが分かる。キリスト教人口の絶対数を見るならば、中国が韓国の4倍以上となっている。面積も考慮して考えてみる と、九州とほぼ同じサイズの台湾と東京の約半分の香港に、日本全体とほぼ同数のプロテスタント人口が分布している。
また、この統計は2010年のものだが、2030年には日本のキリスト教人口は半減するだろうと予測されているのに対し、それとは対照的に中国のキリスト教人口は2億人を超えるかもしれないと推測されるほどだ。こうした統計は一体何を意味してい るのだろうか?
もちろん、統計だけがすべてではない。人数の多さだけが教会の成長の物差しではない。しかし少なくとも言えることは、東アジアは身近な地域でありながらも、そこにはわたしたちがまだ出会っていない多くのキリスト者たちがおり、わたしたちがまだ知らないキリスト教の世界が広がっているということだ。
本連載では、東アジア諸地域のキリスト教界で今、何が起こっているのかを、各地域を良く知る複数の執筆者が紹介していく。筆者自身は主に中国大陸や香港のキリスト教事情の執筆を担当するが、本連載が、この「曲がった時代」にあっても、東アジア諸地域のキリスト教界と読者 を「真っ直ぐに」結ぶものとなることを願ってやまない。
*1 1943年、日本の占領下・影響下にあった同時の東(南)アジア各地の首脳 が、東京で開催された「大東亜会議」において大東亜共栄圏建設と大東亜戦争の完遂を謳った宣言。
*2 2016年度の日本宣教リサーチ(JMR)調査報告によれば、プロテスタントが 55万人(人口比0.46%)、カトリックが45万 人(0.35%)、東方正教会1万人(0.01%)、合 計103万人(0.82%)であり、ピュー・リサーチ・センターの統計とは相違があるが、ここでは調査結果比較のために、同センターの統計数値を記載した。
松谷曄介
まつたに・ようすけ 1980年、福島生まれ。国際基督教大学、北京外 国語大学を経て、東京神学大学(修士号)、北九州市立大学(博士号)。日本学術振興会・海 外特別研究員として香港中文大学・崇基学院神学院留学を経て、日本基督教団筑紫教会牧 師、西南学院大学非常勤講師。専門は中国キリスト教史。