賀川豊彦の思想的源流たどる 協同組合などで学び直しの機運 2017年8月11日
「だれも取り残されない社会を実現します」
協同組合の集会で掲げられた命題だ。2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年の国連サミットで採択された2016年から2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」。その原点として、賀川豊彦の思想的源流をたどる試みが各地で広がっている。全国にある賀川豊彦記念館――賀川記念館(兵庫県神戸市)、本所賀川記念館(東京都墨田区)、賀川豊彦記念松沢資料館(東京都世田谷区)、コープこうべ協同学苑(兵庫県三木市)、鳴門市賀川豊彦記念館(徳島県鳴門市)でつくる五館連絡協議会は、関係者が定期的に集い、それぞれ活動の情報交流や共通する課題の協議と勉強会を続けている。
〝生協の機能と役割は大きな希望〟 五館連絡協議会主催シンポで金井氏
賀川豊彦関係五館連絡協議会の主催により7月7日、「賀川豊彦の現代的意義」と題したシンポジウムと講演会が、四国大学交流プラザ(徳島県徳島市)で開催された。通路に席を用意する盛況ぶりで約70人が参加。
まず金井新二氏(賀川豊彦記念松沢資料館館長)が「賀川豊彦の現在」と題して基調講演。生協による熊本震災の救援活動が、東日本大震災における支援経験の蓄積による点を解説し、賀川豊彦が関東大震災直後、神戸から東京へと転居して支援に入ったことから、どんな形であれ困窮状態にある人を支援せざるを得ないところに賀川精神の発露があるとした。
組織的支援の力を持つ生活協同組合は「自衛隊か生協か」と言われ、緊急時に行政から連絡が入るほどに頼られていることを指摘。インフラの構築と再建など、自衛隊にしかできない仕事がある一方、生協にしかできない大規模な救援活動として人々の「生活の再建」があると提案した。地理的に自然災害の絶えない土地に国を作った日本の将来において、生協という組織的に準備された団体の機能と役割は大きな希望となると語った。
続いて同氏は「子どもの貧困」に言及。「相対的貧困」と「貧困率」を資料から定義し、日本において母子家庭など、貧困状態にある人々が増加している傾向を指摘。また諸外国との比較で、イタリア、日本、フランスで急激に貧困率が増加中であるが、日本生協連が、フードバンク、こども食堂、学習支援、奨学金、DVシェルターに取り組み始めたと紹介した。
また賀川の言葉を引用し、協同組合は助け合いの組織であるとして、資本主義社会の只中にあって、震災と貧困への二つの支援が「協同組合間協同」を形成し、協同組合社会へと繋がっていくのではないか、とした。
続くシンポジウムでは、田辺健二氏(鳴門市賀川豊彦記念館名誉館長)がコーディネーターを務め、岡田健一氏(鳴門市賀川豊彦記念館館長)が「こまったときには賀川豊彦」と題して、賀川の思想実践の幅広さとその現代的価値を強調。賀川が徳島の自然から学んだことを指摘した。西義人氏(賀川記念館参事)は、コープこうべに勤めた経験から「『協同組合間協同の実践』について」カナダ漁協との関係、兵庫県の武庫川の環境改善について解説。また生協組織が利益を得つつも生活者にとって「優しい」ことが重要であるとした。金井氏は、賀川が自身の人生をエクソダスとして考え、そこに人間の普遍的構造を見出し、人間の生き方のモデルとしていたと賀川の実存に触れて解説。また「賀川豊彦が構想した協同組合社会における教会の役割とは何か」という会場からの質問に対して、賀川は協同組合が教会から始まるものだと考えていたが、実際はそうならなかったと応じた。
これに先立ち、6日には鳴門市賀川豊彦記念館で、五館関係者が集い、賀川豊彦をめぐる現在の状況を確認し、各館の事業活動を報告、情報交換を行った。また7日に東京・有楽町で開かれた国際協同組合デ―記念中央集会(日本協同組合連絡協議会、国際協同組合年記念協同組合全国協議会主催)では、「賀川豊彦から持続可能な開発目標(SDGs)へ」がテーマに掲げられ、賀川豊彦記念松沢資料館副館長の杉浦秀典氏が「協同組合の原点」と題して基調講演を行った。