【伝道宣隊キョウカイジャー+α】 ここにこれだけの大人がいて… キョウカイレッド 2017年9月1日
「智也くんのお母さんが自宅で亡くなっているのが発見されました。生徒の緊急連絡先がこちらだったので電話をしました」
いったい何の話なのか飲み込むことができなかったが、受話器を握る手は震えていた。真理子さんが死んだ。何駅か離れたところにある自宅にすぐに駆けつけたが、遺体はすでに警察に移されていた。事件の可能性を調べるために司法解剖に回されたのだ。警察の一室で真理子さんの遺体と対面した。顔はむくみ、どす黒い色をしていた。アルコールが原因だった。
彼女の家に初めて入った時の衝撃は忘れられない。大量の空き瓶、空き缶が散乱している。台所や風呂場などは水垢で真っ黒で異臭を放っていた。中学生と高校生の子どもたちの部屋もコンビニ弁当やスナック菓子のゴミで床は見えない状態だった。まさか真理子さんの家がこんなことになっているとは思いもしなかった。
離婚もアルコールが原因だった。普段は物静かな女性で、教会の奉仕もよくされていた。しかし、酒が入ると豹変する。飲み出すと止まらなくなり、数日飲み続けてしまう。酔っ払って夜中や早朝に電話をかけてくることも多かった。完全にアルコール依存症だった。
何度も一緒に病院に行った。ゴミ屋敷を片付けるために何度も家に行った。何とか生活を立て直せるようにと教会の数人で熱心にサポートをした。しかし、力不足だった。彼女の酒は止まらなかった。そして、彼女は2人の子どもを残して、寝床で血を吐いて死んだ。
葬式のために親戚が集まった。話題は遺された子どもたちをどうするかという話だった。どの家も引き取ることは難しいと言い合い、最終的には施設に入れるしかないと話をしていた。家には部屋もあり、裕福な家の人がいるにもかかわらず、中学生と高校生の2人の子どもを引き受けようとする家はなかった。その先がどうなるにせよ、子どもたちがまず身を寄せる場所が必要だった。
葬儀には彼女の仕事の関係もあり、大勢の人が参列した。会堂は人であふれかえっていた。「ここにこれだけの大人がいて、たった2人の子どもたちを支えられないのか」。葬儀の説教で強い口調で語った。自然とあふれ出た言葉だった。牧師館が彼らの家となった。小さなころから教会で育った2人の子どもたちだ。真理子さんにとって最後に頼るところは教会しかなかった。妻と相談して子どもたちが成人するまでの数年、我が家で面倒を見る覚悟を決めた。
彼らとの新しい生活が始まって1週間が過ぎたころ、遠い親戚の叔父さんが子どもたちを引き取ることを申し出てこられた。葬儀で聞いた言葉が心に突き刺さり、自分たちが面倒を見ようと決心されたという。「教会ってすごいところですね」とその叔父さんは言った。1カ月後、子どもたちは我が家から叔父さんの家に引っ越していった。
あれからちょうど10年が経った。叔父さんは2人の子どもを自分たちの孫のように愛情を注いで育てた。2人の子どもたちはすでに成人して叔父さんの家から独立した。久しく会っていないが、元気にしているだろうか。教会にひょっこり里帰りしてくれることを夫婦で楽しみにしている。
キョウカイレッド
赤星雄馬(あかほし・ゆうま) 常に筋トレを欠かさない体育会系アスリート牧師。その体の大きさから態度のデカい奴だと見られるのが悩みの種。大食漢。仁義に厚い。武器:黄金バット/必殺技:み言葉千本ノック/弱点:食欲