【置かれた場所は途上国】 フィリピン■上■ 初めての途上国、ピープル・パワー革命! 平本 実 2018年2月1日

 1985年、わたしは初めて途上国と呼ばれる国を訪れました。訪問先はフィリピン。当時はまだ学生で、ワークキャンプということでスラムの学校のペンキ塗りなどの労働を地域の同世代の青年たちと共にする、というプログラムでした。

 自分と同じキリスト教信仰を持ち、同時代を生きるフィリピンの若者たちが、大きな社会格差、戒厳令など独裁政権下での弾圧や言論統制の中、強く、しかしユーモアにあふれて生きる姿に感銘を受けました。のちに途上国の地域開発を学ぶためフィリピンに留学、現在までその仕事を続けるわたしの原点は、この最初のフィリピン訪問にあると言っても過言ではありません。

 独裁政権として国際的にも非難を浴びるようになったフェルディナンド・マルコス大統領に対して、軍の一部と民衆が立ち上がる「ピープル・パワー革命」が起きたのは翌年のこと。1986年2月25日、同大統領は亡命。無血による政変によりコラソン・アキノ氏が大統領に就任しました。

 前年の体験に感化され、アルバイトの資金をつぎ込んで航空券を買ったわたしのフィリピン再訪とこの出来事が重なりました。エドサ大通り、そしてビジネス街のマカティにあふれかえった人々の喜びの顔とその熱気にただただ圧倒されました。

 フィリピンは、東ティモールを除けば東南アジア唯一のキリスト教徒が多数を占める国。国民の約9割がカトリック信徒です。スペイン植民地時代に広まったキリスト教は、宗主国の統治の手段になったとされる半面、歴史に残るこの反独裁政権闘争では、貧困層も巻き込んだ大衆運動としてのうねりにも大きな役割を果たしたと言われています。主に中南米のカトリック司祭により提唱された解放の神学は、ここフィリピンでも草の根の宣教の中に根付いていました。

 「この現実を見てください」――スラムで子どもたちに給食を配るシスターは語りかけました。スモーキー・マウンテンと呼ばれるゴミ集積場の山の中にもカトリック教会の礼拝堂は建てられていました=写真。

 そこから100mも離れない壁の向こうにはきれいに着飾ったミドル・クラスの人々が通う教会があり、そのギャップに打ちのめされました。わたしの国は、そしてわたし自身の立ち位置はどこにあるのか、深く考え始めることになります。

ひらもと・みのる 国立フィリピン大学院卒業、明治学院大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士前期課程修 了後、社会福祉専門学校の教員を経て、2000年1月より社団法人日本キリスト教海外医療協力会のダッカ事務所代表としてバングラデシュへ3年間派遣。その後、国際協力機構(JICA)のインド事務所企画調査員、国際協力機構のキルギス共和国障害者の社会進出促進プロジェクトで専門家として従事。2010年9月、ワールド・ビジョン・ジャパン入団。支援事業部開発事業第2課プログラム・コーディネーター。

(写真提供・協力:ワールド・ビジョン・ジャパン)

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