「宗教教育ぬきに他者理解できない」 フェリス女学院中高出身・お笑いジャーナリスト たかまつななさんインタビュー 2018年3月11日

 「現役東大生のお笑い芸人が偏差値44の高校の投票率を84%にした」として話題を呼び、昨年には書籍化(『政治の絵本』弘文堂)もされた人気の授業。これまで体験した生徒は全国で延べ2万人を超える。少女漫画風のイラストを多用し、政治の成り立ち、選挙の重要性など、難しそうなことも楽しみながら学べる工夫を随所に盛り込んだ。18歳選挙権を機に、若者と政治の距離を縮めるため、株式会社笑下村塾を設立。芸能活動をする傍ら、東京大学大学院、慶應義塾大学大学院で学業に勤しみながら、講演会、ワークショップの企画運営などを手がける「お笑いジャーナリスト」たかまつななさん。政治と同じく避けられがちな宗教の話題をどう伝え、教えていくべきか、助言を仰いだ。

〝キリスト教学校が変われば社会も…〞

――「ニュースペーパー」さんなど、いわゆる社会派の芸人さんを意識することはありますか。

 あります。わたしは松元ヒロさんが大好きで、高校生の時に弟子入りをお願いしたら断られました(笑)。高校生の時に、核兵器廃絶を訴える団体で「高校生平和大使」になって、人前でスピーチする機会がたくさんありました。でも、同じ考えを持っている人ばかりから「そうだそうだ」「がんばって」と言われるだけでは意味がないと思ったんです。問題の解決にも至らない。

 だからこそ、わたしは政治色やイデオロギーなしに中立で語ることが課題だと思っています。ただ、それはある種の敗北でもあります。お笑い芸人として、R-1グランプリなどの勝負の時は、お嬢様ネタなど違うネタをやっていますから。怒りは笑いにつながりやすいのですが、すごく難しくて、しかも伝える数に限界があります。その戦いから逃げたわけではありませんが、お笑いの舞台で政治について伝えるのは限界があると思いました。

――最近では村本大輔さん(ウーマンラッシュアワー)のネタが話題になりましたが……。

 正直、くやしいなと思います。社会派のネタはテレビでは出られなかったり、面白くないと思われていましたが、村本さんはその殻を破った感じがします。

――中立性が求められる学校の授業では、たかまつさんご自身の政治に対する考えやスタンスは表明できませんよね。

 わたしが「憲法についてはこういう考えを持っていますから、〇〇党に入れてください」という教育をしてしまったら、それはもう政党活動であって、わたしがやる意味がなくなると思います。文化人からはたびたび「投票率を上げるだけではなく質を上げなければ意味がない」と怒られますが、「だったらあなたは質を高めるような投票をしているのですか?」と問いたい。

 おそらく何層かのレイヤーがあると思っていて、まずは政治に対する興味を持ってもらい、その後に質を上げるという作業が必要です。わたしは関心を高めることしかできませんし、今は市場を広げることの方が大事だと思います。本当はみんなで協力する必要があるのに、「あれはダメ」「これが足りない」と足を引っ張り合うのは不毛です。投票の質を上げる役割は、他のNPOや文化人の方々に担ってほしい。

 宗教も同じだと思います。プロテスタントとカトリックは本当なら手を組まなければいけないと思います。日本にとっては、宗教というもののイメージアップが大事だと思うので、例えばキリスト教とイスラム教が何か一緒にやるとか。

 思い付きですけれど、わたしが宗教教育をやるなら、できるだけさまざまな宗教の人が集まって、宗教教育に関わるようなやり方がいいと思います。結論がまとまりそうにもないですけど、そういうチャレンジの方がより中立性も保てます。

 宗教の教育を抜きに、他者理解もできないのではないかと思います。グローバル化の中で、「イスラム教=怖い、犯罪者」というレベルの認識は恥ずべきことだと思います。宗教の知識がなさすぎるゆえに騙されてしまうこともあります。やはり蓋をするというのは危険で、ある程度のリテラシー教育は必要だと思います。

――日常的に宗教の話ができるのが理想ですね。

 どの業界でも、詳しい人は敷居を低くすることに対して怒るんですが、よくないと思います。キリスト教とは何かを知るということは、今の国際社会においては大事だと思います。他の人の文化を認めないで自分の国の文化を認めろというのはおかしい。

困った人がいたら手を差し伸べる「for others」

入学当初のたかまつさん(12歳)

――フェリス女学院出身でいらっしゃいますが、キリスト教の印象や思い出などは?

 毎朝礼拝がありましたが、正直「だるいな」と思っていました。礼拝の30分間は、聖書カバーに隠して本を読んだり、単語帳を見ながら勉強したりして過ごしました(笑)。

 フェリス女学院では修学旅行の代わりに2日間の修養会があって、「友だちとは」「信じるとは」「生きるとは」などのテーマで話し合います。多感な時期にこういう話題を本音で話した経験は、今の活動にもとても活きていると思います。慶應大学に進学してから、そのことに気が付きました。慶應生は活発で優秀な学生が多い反面、自分さえ目立てばいい、成功すればいいという傾向や雰囲気がどことなくあります。でも、フェリスの場合「for others(他者のために)」が学校のモットーだったので、困った人がいたら手を差し伸べるという校風がありました。みんな、困った人のために社会を変えたいと願う気持ちがあって、それに対してまっすぐな熱い想いを持っていました。大学で培った能力をどのように社会に還元するかを考えなければいけないと思うんです。

 また、「自分の意見がない人はダサい」という校風もフェリスにはありました。入学した当初は、周りが気の強い人たちばかりで逃げ出したくなりましたが、6年間通ううちにわたしも染まっていきました。

 私立学校には優秀な生徒がとても多いので、主権者教育も積極的にやってほしいと思います。もう少し社会と接点を作るという点をキリスト教の学校がやってくれたら、だいぶ社会も変わるのではないかと思っています。若い人の声がとにかく届きにくい社会で、能力のある学校が閉鎖的だと何も変わらない。その扉をぜひ開けてほしいと思います。

 ちなみに、今も恋愛ができない、彼氏がいないのもフェリスのせいです(笑)。

――今後の「野望」はありますか?

 4月からNHKに入社しますが、政治だけではなく、宗教、社会問題を身近に感じることができるような番組を作りたいと思っています。池上彰さんの功績はニュースで数字(視聴率)を取れることを証明したこと。わたしはニュースを分かりやすく説明するだけでなく、もっと社会問題の本質に迫れるような企画を考えたい。政治と社会問題の伝え方は一辺倒で、ドキュメンタリーか討論番組かのいずれかに限られてしまっているので、そこはどうにか変えていきたいと思っています。

――ありがとうございました。(「Ministry」36号に関連記事)

 たかまつなな フェリス女学院出身のお嬢様芸人として、テレビ・舞台で活動する傍ら、お笑いジャーナリストとして、お笑いを通して社会問題を発信している。中学・高校の社会科教員免許を取得。

【たかまつなな NHK入局前ラスト単独ライブ「御機嫌よう、さようなら。」 】
 新ネタ&豪華ゲストと大激論! ライブでしか聞けない話が 盛りだくさん。
 19:30 開演(19:00 開場) 会場:角筈区民ホール (東京都)
3月9日 ゲスト:テレ東プロデューサー 佐久間宣行「若者に刺さる番組の作り方」
3月10日 ゲスト:ウーマンラッシュアワー 村本大輔「テレビで政治ネタをやる方法」

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