【映画評】 『一陽来復 Life Goes On』 泣く人と共に〝希望〟つなぐ賛歌 2018年3月11日
岩手・宮城・福島の被災3県にまたいで大きな傷と「十字架」を負いながらなお、再生の道を探り続ける姿を丁寧に追う。
3人の子どもたちを津波から救えなかったことを悔やむ父、「心のどこかで夫を責めていた」というその妻、5日前に結婚式を挙げた夫を津波で失い、4カ月後に生まれた娘と2人で生きるシングルマザー、犠牲者の想いを伝え続けたいと語り部となって奔走するホテルマン、「同時代を生きる共犯者」だとの自覚から電力会社との対話を模索する商工会長――。
全編を貫くのは、「かわいそうな話、ドラマチックな話には仕立てない」という監督の固い意志。それぞれの地に「被災者」「復興」とひと括りにできない重層的で多様な物語があることを、改めて知る。被曝した約300頭の牛たちを見捨てられず飼育を続ける男性が、複雑な胸の内をつぶやく。「殺処分、餓死、遠くに逃げた人たち、全部正しいと言うしかないと思う。間違ってない、全部正しいんだと言うべきだよね」
愛する家族、友人、故郷を失った人々が、その経験を無にすることなく、他者の悲しみを癒そうと奔走する姿は尊い。そうして新たな〝希望〟が国や地域、世代を超えてつながっていく。決して悲劇で終わらない人と命への賛歌。「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」(ローマの信徒への手紙12章15節)との言葉が頭をよぎる。
見どころは圧巻のオープニングとエンディング。ドキュメンタリー映画とは思えない映像美。多くの証言を聞きつつも、画面に映し出される自然の営みと一人ひとりの眼差し、息遣いを見ていると、〝あの日〟を語り継ぐには言葉すら要らないのかもしれないと思えてくる。
今年もまた、春がやってくる。
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中。
監督:ユンミア/撮影監督・共同監督:辻健司/ナレーション:藤原紀香、山寺宏一
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