【東アジアのリアル】 ひまわり学生運動と長老教会 藤野陽平 2018年3月21日
今回は2014年3月に学生を中心とする若者が国会を占拠し、全世界が大きく注目したひまわり学生運動(以下、ひまわり運動)における長老教会の動きを振り返ることで、台湾の政教関係の状況を紹介したい。
ひまわり運動は、当時の政府が中台間のサービスと貿易の自由化を進める中台サービス貿易協定に十分な議論を経ないまま、一方的に採決に入ろうとすることを阻止しようとして発生したが、長老教会は政府に反対する学生らに全面的に協力した。
ひまわり運動発生当日には記者会見が行われたが、長老教会関係者もこれに参加した。このことからも運動の当初から長老教会は関与していたことが見てとれる。3月24日、長老教会は学生を支持し政府を批判するという内容の声明を発表した。
教団の動きに信徒らや関連団体も同調する。そもそも、ひまわり運動には多くの長老教会信徒の青年たちが含まれていたし、連日行われた国会の外でのデモに信徒たちは老若男女を問わずこぞって参加した。神学校や原住民などによる複数の聖歌隊のグループが国会の内外で公演し、双連教会のマッサージのグループも国会の中で疲労が蓄積する学生たちをケアした。長老教会系のマカイ記念病院の急患部は負傷した学生の診察も担当した。
長老教会は、現地で毎週日曜日に礼拝をするなど宗教活動も行った。3月22日には断食祈祷区も設置され、国会のすぐ隣に位置する済南教会は毎晩解放され、祈祷会が行われた。
長老教会の中でも特筆すべき活動を行った教会に公義行動教会という教会がある=写真上。2010年2月28日に設立された比較的新しいこの教会は正義を意味する「公義」と「行動」という語にも表されているように、積極的に社会活動を行う。また、この教会には建物がなく、礼拝は台北市内の二二八記念公園内で毎週日曜日午後2時28分から行っているという特徴がある。「228」という数字にこだわるのは1947年に発生し数万人の市民が犠牲になった二二八事件を強く意識しているものでもある。この教会は建物がないだけに必要に応じて礼拝の場所を自在に移動できる。そのため、ひまわり運動の最中には現場である国会で礼拝を行うということも可能となった。
最後に、その後の話をしておきたい。ひまわり運動に中心的に関わった若い信徒たちが集まって「太陽花青年福音団」という小さなグループを2014年12月21日に設立した=写真下。毎週日曜の午後5時から集まって礼拝をし、その後は、遅くまで政治と宗教の問題について熱い議論を交わしていた。現在、このグループは活動をとりやめているが、それぞれの参加者がキリスト者として社会での活動を継続している。
小さい集まりではあったが、2016年の政権交代につながる流れの一つであったと評価できるし、ごく最近では今年の2月に花蓮で発生した地震の被災地で積極的にボランティアを行っているように、今日でもその活動は活発である。台湾の民主化運動を牽引した長老教会の、社会に関わるという姿勢がまいた種は、若い世代の「ひまわりクリスチャンたち」という形で花が咲いたということであろうか。
藤野陽平
ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュ ニケーション研究院准教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学―社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。