【聖書翻訳の最前線】 『聖書 聖書協会共同訳』について 2018年4月1日
日本聖書協会は、『聖書 新共同訳』(1987年)の次世代となる『聖書 聖書協会共同訳』の翻訳を2010年に開始し、2018年12月出版を目指して翻訳を進めています。
翻訳開始に先立ち、カトリック教会を含む18の諸教派、団体が議員を送り、「共同訳事業推進計画諮問会議」が開かれました。2009年10月6日の最終回では「翻訳方針前文」を採択しました。この「前文」を採択した18教派・団体の信徒の合計数は、日本国内のクリスチャン人口の75%となりますので(『キリスト教年鑑』2009年度版)、この前文に表現されている翻訳聖書は、諸教会によって求められている聖書と言えるでしょう。その「前文」の重要な点を挙げて、『聖書 聖書協会共同訳』(以下、聖書協会共同訳)の幾つかの基本理念と特徴をお伝えいたします。
■新しい聖書の特徴
(1)スコポス理論 礼拝にふさわしい聖書
過去の聖書翻訳の歴史には、意訳がふさわしい、あるいは直訳がふさわしいという対立がありました。この度の聖書翻訳では、スコポス理論という枠組みを取り入れました。それは、意訳か直訳かということではなく、読者対象と目的(ギリシア語で「スコポス」)に合わせて翻訳をすべきであるというものです。上述の「翻訳方針前文」によると、諸教会の指導者は、教会の礼拝にふさわしい聖書を求めています。そこで、この度の聖書翻訳は、礼拝で朗読される聖書を目的(スコポス)としました。
(2)共同訳事業の継続
新共同訳聖書は、カトリック、プロテスタントの違いを超えた初めての共通の聖書として広く用いられてきました。聖書協会共同訳も新共同訳に続き、カトリックとプロテスタントが力を合わせて翻訳作業に取り組んできました。
(3)変化に対応する
日本聖書協会は、明治元訳(1887年)、大正改訳(1917年)、口語訳(1955年)、新共同訳(1987年)と約30年おきに聖書を改訂、あるいは新たに翻訳してきました。おおよそ30年おきの翻訳というのは、他の国の聖書協会でも見られることです。30年たつと、言語が変化すること、聖書学、写本研究、考古学が発展し、新たな知見が多く加わることがその理由です。聖書協会共同訳も、そのような変化に対応しています。
(4)過去の業績を大切にする新訳
聖書協会共同訳は、新共同訳の改訂ではなく原文からの新たな翻訳です。同時に、口語訳や新共同訳を中心に、これまでの過去の和訳聖書の歴史と業績の上に立つ翻訳です。
(5)注付き
聖書協会共同訳では、底本を離れる場合の「異読」、他の翻訳聖書と解釈が大きく異なる場合の「別訳」、また、「言葉遊び」、などの脚注を付けます。脚注については、(『特徴と実例』)巻末の組見本を御覧ください。
■実例
前述のような基本理念をどのように実現するのか、具体例を挙げてご説明します。なお、訳文は最終的なものではなく、今後も改訂される予定です。
(1)新しい底本
聖書協会共同訳の底本は、旧約がBHS(ビブリア・ヘブライカ・シュトットガルテンシア)、分冊が出版されていればBHQ(ビブリア・ヘブライカ・クインタ)、新約がネストレ28版に基づくUBS第5版(「ギリシア語新約聖書」聖書協会世界連盟編)、そして続編がゲッティンゲン版(「ギリシア語旧約聖書」ゲッティンゲン研究所)です。
(2)新しい聖書学の成果を生かす
聖書協会共同訳の原語担当翻訳者や、原語担当編集委員は日本の聖書学を担っている方々ですので、最新の聖書学の成果が随所に表されています。以下(次号以降)にそのごく一部をご紹介します。
(『聖書 聖書協会共同訳―特徴と実例』より)