【聖書翻訳の最前線】 旧約聖書④「地上に置かれた」(詩編8編2節) 2018年4月21日
④「地上に置かれた」(詩編8編2節)
詩編8章2節は新共同訳ではこのように訳されています。
主よ、わたしたちの主よ
あなたの御名は、いかに力強く
全地に満ちていることでしょう。
天に輝くあなたの威光をたたえます。
この節の「天に」の直前には、アシェルという関係代名詞があるのですが、その代名詞が長い間解決されない問題でした。そのため、今までの訳は、アシェルに続いている「置く」という動詞と合体させて、「(ほめ)たたえます」という別の動詞に変えて翻訳してきました(口語訳も同様です)。
しかし、この読みを支持する写本は一つもありません。また、理解できないアシェルを無視して訳す聖書もあります。
聖書協会共同訳では、このアシェルが、関係副詞としても使われていることに注目し(詩編84編4節、95編8節、9節、民数記20章1節)、無理に動詞と合体させず、「そこに」と単純に訳しました。原文では、直前に「全地」があるので、「そこ(全地)に置いた、天上の威厳を」としたのです。また、神の威厳が天と地にあるというのは、詩編148編13節にも記されています。
その結果、現在の訳は次のようになっています。
主よ、我らの主よ
御名は全地でいかに力強いことか。
あなたは天上の威厳を
この地上に置(かれた)
この訳は、詩編八編全体としても一貫性のある訳となっています。原文どおりに読もうとする努力の結果、 長い間解決できなかった本文上の問題を解決することができました。
(『聖書 聖書協会共同訳――特徴と実例』より)