【東アジアのリアル】 翻弄される中国の家庭教会 遠山 潔 2018年5月1日
旧正月を終えた中国。新たな1年が始まろうとする中、中国社会では一つの嵐が静かに巻き起こっていた。2018年2月1日から施行された「宗教事務条例」改訂版の影響である。宗教的集会を取り締まることを目的とするこの条例。それが実際に施行され、その影響が徐々に家庭教会にも及びつつあった。
中国では依然として教会が盛んである。一時の勢いは衰えたように見られるが、それでも老若男女を問わず、キリスト教の集会に人々は足を運ぶ。復活祭にも多くが洗礼を受け、日本では信じられないような数の人が入信していることを目の当たりにする。何が日本とは異なるのか。いまだにその原因がよく分からない。
中国では公認教会が正式な教会として存在しているが、実際、至るところに家庭教会が存在していることは周知の通りである。それは大学構内でも普通の住居小区でも、また会社内でも同様である。しかし、最も顕著な広がりをもっていたのは、地方から出稼ぎのために大都市に来た労働者たちの居住区であろう。大きな希望を抱いて移住し、過酷な労働環境さえも耐え忍んできた彼らのひと時のオアシスとして、家庭教会はその存在意義を保ってきたのであった。しかし、その出稼ぎ労働者たちの居住区が今、大きな変遷を遂げようとしている。
2017年11月にその惨事は起こった。大規模な火事である。多くの出稼ぎ労働者たちが住む地域での今回の火事は、数十人の命を奪ったと報道された。そしてその影響を受け、非合法的な住居の撤去が凄まじい速さで進められ、労働者たちは立ち退きを余儀なくされた。
彼らは行き場を失い、故郷に帰る者と他の地域へと移住する者とに分かれた。その煽りを受けてか、そうしたところにオアシスとして存在していた家庭教会は解散を余儀なくされたのである。
中国の家庭教会はさまざまな意味で社会貢献を成し遂げているのだが、その評価は十分に認識されているとは言い難い。今年10周年を迎えるあの2008年5月12日に起きた四川省汶川の大地震。7万人近くの死者、37万人以上の負傷者、そして、1万7千人以上の行方不明者を出した大災害の後、全国の家庭教会は敏速に動き、呼びかけ、救援物資を惜しみなく運び込んだ。
あの時、真っ先に震災地へと向かい、救援活動を行ったのが家庭教会の人々であった。そこには労働者たちの姿もあった。キリストの愛の実践が可視的な形で届けられていた。その後、大都市に流れ込んだ人々の中には、あの地震で人生を大きく変えられた人たちもいた。しかし、そのような彼らも、再び、行き場を失った。闘いはいつまで続くのか。
アメリカ・デューク大学神学部の蓮曦氏が新たな本『Blood Letters:The Untold Story of Lin Zhao, a Martyr in Mao’s China』を上梓した。過酷な時代においても抵抗し続ける信仰者の姿が綴られている。翻弄(ほんろう)される中国の信仰者たちだが、我々は彼らのために一体何ができるのであろうか。深く考えさせられる。
遠山 潔
とおやま・きよし 1974年千葉生まれ。中国での教会の発展と変遷に興味を持ち、約20年が経過。この間、さまざまな形で中国大陸事情についての研究に携わる。国内外で神学及び中国哲学を学び修士号を取得。現在博士課程在籍中。関心は主に中国の教会事情及び教会の神学発展についての諸問題。趣味は三国志を読むこと。