宗教を超えた対話を 「アディアン財団」に庭野平和賞 2018年5月21日

 庭野平和財団(庭野浩士理事長、東京都新宿区)は第35回庭野平和賞を、NGOアディアン財団(ファディ・ダウ理事長=マロン典礼カトリック教会司祭)に贈呈した。5月9日に国際文化会館(東京都港区)で贈呈式が行われ、約200人が参加した。同賞は宗教協力による世界平和達成を目的に活動している個人や団体に贈られるもの。

 アディアン財団は、キリスト教とイスラムの異なる宗派の5人で、2006年にレバノン共和国で設立。「非排他的市民」という概念に基づき、レバノン全土の教育カリキュラムの改革などを行っている。また、シリア内戦で傷ついた人々の平和と和解を手助けするプログラムを行い、レバノン国内外で宗教的対立を超えた和解に貢献している。インターナショナルグラント(国際助成金)や3千人に及ぶメンバーからの寄付、書籍や動画の販売を活動資金としている。

 創設から10年で29カ国3万5千人もの人々に貢献し、レバノンとシリアの両国内のシリア人に『回復と和解構築プログラム』を行った。異なる宗教の間に対話をもたらし、平和教育を提供したことが評価された。

 庭野平和賞委員会委員長のノムフンド・ワラザ氏(デズモンド・ツツ平和センター最高経営責任者)はアディアン財団の今後に対し「宗教的に分断した社会から多文化が共生する成熟した社会へと変化するため、過激主義への抵抗力を保持する方策の開発を継続することを期待する」と述べた。

 贈呈式では、賞状と顕彰メダル、賞金2千万円がダウ氏とナイラ・タバラ副理事長に贈呈された。

 受賞にあたりダウ氏は「平和は唯一戦って勝つに値する勝利。わたしたちは力を尽くし、勝利のために共に戦っていく」と今後の決意を語った。

 「メディアをどう活用しているか」という記者からの質問に対し、同氏は「現在のアラブでは伝統的メディアが政治化して中立を保っていないので、若者はソーシャルメディアで情報収集している。アラブ世界で客観的情報を伝える使命を感じ、当財団ではオンラインのプラットホーム『多元共存』を立ち上げ、アラブの若者たちにとって積極性のある情報を発信している。2300万人のユーザーのうち中心層は16~35歳で、彼らが世論に対し批判力的思考を持つための努力をしている。これはアラブの春から学んだことだ」と回答した。

 2016年にアディアン財団はバチカンの諸宗教対話評議会とKAICIID(アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター)と協働し「諸宗教における分かち合いと和解に向けた慈悲の証明」と題した諸宗教シンポジウムをローマで開催した。

 その際、アディアン財団はフランシスコ教皇の活動を称え、アラビア語で慈悲を表現した『慈悲の象徴』像を教皇に贈った。「慈悲は宗教を問わず共通の概念なので、教皇への贈呈はふさわしいと思った。『シリアや中東のために祈ってください』とお願いすると、教皇は『シリアや世界のためにいつも祈ります』と応じた」とダウ氏は述べた。

*マロン・カトリック教会=ローマ・カトリック教会に帰属するが、組織や典礼は独自の伝統を継承する東方カトリック教会の一派。レバノンを中心に、シリア、パレスチナ、キプロス、エジプトなどの中東と、米両大陸などにも分布する。

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