【宗教リテラシー向上委員会】 10年経てもなお消えぬ「摂理」への懸念 川島堅二 2018年5月21日

 強姦致傷罪で懲役10年の実刑判決を受け、韓国で服役中だった宗教団体「摂理」(現・キリスト教福音宣教会)代表の鄭明析(チョン・ミョンソク)が去る2月18日刑期満了で出所した。

 「摂理の教祖が一部女性信者に対し酷いセクハラを行っているのは事実です。わたしはその被害者です」というメールを受け取ったのは15年前、2003年の春だった。摂理についてはすでに90年代に統一教会(現・世界平和統一家庭連合)問題に取り組んでいた弁護士や牧師らが韓国の情報に基づき注意喚起を行っていた。

 しかし、日本での活動や被害についてはほとんど情報がなく、自分のホームページで情報提供の呼びかけを行っていたのだった。この訴えがきっかけとなり弁護士と共に数年にわたる相当数の日本人被害者への聞き取り調査が実現、2006年7月「朝日新聞」による一連の報道に結実した。

 

 「摂理」の特異な点は、この団体が日本では現在に至るまで宗教法人格を持たない任意団体であるため、土地建物など自前の施設を持たず、80年代に筑波大学から始まった日本での宣教活動以来、一貫して主に大学のサークルを活動拠点としてきたことである。したがって前述の新聞記事では、北海道から九州まで名だたる大学が「摂理」の活動拠点となっていたことが報じられた。

 統一教会やオウム真理教によるいくつもの犯罪行為に有名大学卒の信者が関わっていたことはよく知られていた。しかし、「摂理」の事件は日本の大学にとって深刻さのレベルが違った。関西では大阪大学、関東では千葉大学が学長からのトップダウンで全学的な対策を実施。2009年には大学教職員有志の運営による「全国カルト対策大学ネットワーク」が発足。現在は勧誘の被害が中高生にまで拡大している状況に対応して「カルト対策学校ネットワーク」と改組され、全国の国公私立大学の約2割がこれに参加している。

 10年が経過し、このような取り組みは「宗教リテラシー」という点では確実に実を結んできている。多くの大学で新入生ガイダンスにおいて正体を隠した宗教勧誘への注意喚起がなされるようになった。また、エホバの証人の信者による家庭訪問勧誘を受けた経験のある人は多いだろう。以前は「クリスチャンですが」と言っていたが、最近は「エホバの証人です」ときちんと団体名を名乗るようになった。「正体を隠した勧誘行為は違法」という認識の広まりを実感する。

 しかし、教祖や信者が犯罪者として裁かれたカルト宗教の活動は、無反省のまま依然として続いている。「摂理」もオウム真理教(現・アレフ)も、事件が大きく報道された直後からしばらくは信者の減少が認められたが、現在は年々漸増傾向である。

 「1回のイベントに500人を超える大学生を集める団体」というのが、オウム事件が顕在化する90年代半ばに大学教員となったわたしのリサーチ対象基準だったが、この指針の有効性はまだまだ続きそうである。

川島堅二(東北学院大学教授)
 かわしま・けんじ 日本基督教団正教師、博士(文学)、専門は宗教哲学、組織神学。オウム真理教による地下鉄サリン事件を契機に、再発防止のために弁護士や学者、心理カウンセラー、宗教者、元信者、被害者家族らにより結成された日本脱カルト協会に草創期より関わり、現在は理事も務める。

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