【空想神学読本】 「けものフレンズ」と「少女終末旅行」にみる現代の終末思想と人間論 Ministry 2018年5月・第37号
作品名が2017年度の「新語・流行語大賞」にノミネートされるほど話題になった「けものフレンズ」。同じ17年にアニメ化されカルト的な人気を博した「少女終末旅行」。この似ても似つかない両作は、現代の黙示文学としてどんな終末観を表出させたのか。
世界に始まりと終わりがあると語る聖書は、人間の堕落と回復を描くことによって、人間の本性に対する極端な楽観論と悲観論を退けたかもしれない。ヨハネの黙示録をはじめ、黙示文学はいつか訪れる正しい審判と争いのない世界を、現在と半ば非連続な形で述べる。しかし、それでも現代に生きていれば、人々はいつか現在と連続した形で訪れる人類史の終わりという悲観的な結末をを空想せずにいられない。
「けものフレンズ」と「少女終末旅行」は、その意味で現代の黙示録とも呼べるだろう。つまりそこでは、現代における終末論と人間論が、ある種のリアルさで描かれているのだ。いつか終わる世界という終末思想はアニメと漫画の形で結実する。そして、終末を描くことは、同時に人間のあり方を描くことになる。ではこれらの作品は、最後に残った(かもしれない)人類を引き合いに出して、人類の愚かさを嘆いたのだろうか。筆者はむしろ、二作品のテーマに、ささやかな人間賛歌があったのではないかと考える。
サバンナで目覚めた「かばん」と呼ばれる少女は、絶滅したとも思われていたヒトの「フレンズ」であった。荒廃した人類の遺物を尻目に、争いが齎した痛々しい傷跡を認めつつ、しかしかばんがフレンズたちに示したのは智慧と勇気と愛であった。
一方、誰も居なくなってしまった階層都市を旅するチトとユーリの二人。戦争の記憶と武器に囲まれて進む彼女らが出会った人々は、とても親切で、穏やかで、前を向いていた。「絶望と仲良くなる」というフレーズに違和感を覚えずに、二人はひたむきで、その日常はただただ微笑ましかった。これは楽観か悲観か。
高度なテクノロジーがあったと思われる文明が亡んだところをアニメの舞台にしても、受け手には何の疑問もない。また、戦争ですべての人類が死んでしまったという物語の背景を、読者はすんなりと読み取ることができる。いわばそれはこの世界の共通見解であって、いつか終わってしまうような際どいところを私たちは歩んでいるという実感が、この両作にリアリティを与えているのだ。
ならば、そこに映し出されるこの温かさはなんだろうか。かばんが動物たちの前に提示するヒトの力に、視聴者は期待する。チトとユーリが送る日常に、読者はエールを送る。ここへ来ても、私たちは人類というものに望みをかけているのだと、気づかざるを得ないのである。
もちろん、人類の万能感を誇りたいわけではない。両作に共通するのは、それが大きな集団から切り離されたコミュニティだということだ。体制や歴史を形作る大勢はそこには存在しない。もしかすると、時間の積み重ねや規模の拡大によって、人類という大きな存在には、取り返しのつかない失敗が不可避になってしまうのかもしれない。だからこそ、そこからはぐれてしまった時間と場所で、ミニマムに物語は始まる。人間がうちに秘めている善性がそこにはある。かといって、完全に歴史を否定している話でもない。歴史の、本当にその最後の最後かもしれないが、あるひとコマに置かれている物語ではある。唐突に開幕するけものフレンズですら、ミライという人物によって歴史という大陸に物語は繋ぎとめられているのだ。まるで、そうすることでかばんに何かのバトンを託そうとするかのように。
「けものフレンズ」あるいは「少女終末旅行」という名の人間論は、どこか人類に希望を持たせている。自らの歴史を途絶えさせる不完全さを持ち合わせ、しかしあながち見捨てたものでもない存在、それが人間だ。
聖書と違い、この黙示録には最後の審判はやってこない。「ヌコ」も人工知能も価値判断をしない。サーバルはかばんを「すごーい!」と称える。そこには存在承認しかない。しかし、この善性がひたすら根本的であるゆえに、神不在の黙示録のはずなのに、神に埋められるべき空白を指し示しているかのように、観るものに感動を与える。こうして私たちは人類の回復を予感する。これが終末物語に落とし込められた現代の人間論であれば、楽観と悲観を棄却した聖書のそれと、幾分近いと言ってもよいのではないだろうか。
どんなに希望の見えない人類のバッドエンドストーリーも、「終わるまでは終わらない」。人類史に火をつけるように、かばんの智慧と勇気と愛も、観る者の心に飛び火しているのかもしれない。
(御堂大嗣)
【作品概要】 けものフレンズ
この世界のどこかにつくられた超巨大総合動物園「ジャパリパーク」。そこでは神秘の物質「サンドスター」の力で、動物たちが次々とヒトの姿をした「アニマルガール」へと変身――! 訪れた人々と賑やかに楽しむようになりました。しかし、時は流れ……。ある日、パークに困った様子の迷子の姿が。帰路を目指すための旅路が始まるかと思いきや、アニマルガールたちも加わって、大冒険になっちゃった!?
■原作 けものフレンズプロジェクト
■総監督 吉崎観音(コンセプトデザイン)
■監督 たつき
■出演 内田彩、尾崎由香、本宮佳奈、小野早稀ほか
■キャラクターデザイン irodori(モデリング)
■放送局 テレビ東京
■話数 全12 話(第1期)
少女終末旅行
繁栄と栄華を極めた人間たちの文明が崩壊してから長い年月が過ぎた。生き物のほとんどが死に絶え、すべてが終わってしまった世界。残されたのは廃墟となった巨大都市と朽ち果てた機械だけ。いつ世界は終わってしまったのか、なぜ世界は終わってしまったのか、そんなことを疑問にさえ思わなくなった終わりの世界で、ふたりぼっちになってしまった少女、チトとユーリ。ふたりは今日も延々と続く廃墟の中を、愛車ケッテンクラートに乗って、あてもなく彷徨う。
■作者 つくみず
■出版社 新潮社
■レーベル BUNCH COMICS
■発表期間 2014 年2 月21 日~ 2018 年1 月12 日
■巻数 全6巻