外国人労働者を増やす入管難民法などの改正案が国会で審議される中、外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)は11月27日、「外国人の人権をふみにじる『新たな受け入れ』改定法案を廃案とし、包括的な移民政策・人権政策への転換を求める」緊急声明を発表した。全文は以下の通り。
≪緊急声明≫
外国人の人権をふみにじる「新たな受け入れ」改定法案を廃案とし、包括的な移民政策・人権政策への転換を求める
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)
共同代表:金 性済(日本キリスト教協議会=NCC=総幹事)
松浦悟郎(日本カトリック難民移住移動者委員会委員長)
秋山 徹(日本基督教団総幹事)
金 柄 鎬(在日大韓基督教会総幹事)
李 清 一(関西外キ連世話人代表)
吉高 叶(日本バプテスト連盟常務理事)
2018年11月2日、日本政府は「新たな外国人材受け入れ」のため、在留資格「特定技能」の新設と、法務省外局としての「出入国在留管理庁」の設置を図る「出入国管理及び難民認定法」と「法務省設置法」の改定案を閣議決定し、国会に提出した。きわめてずさんな制度設計であるこの改定案に対しては、国会内外で批判されている。
問題の核心は、とりあえず受け皿を設けて、外国人を新たに何万人受け入れるかではない。また、その受け皿を精緻なものにするかどうか、ではない。日本国家および日本社会はこれまで外国人をどう受け入れてきたのか、そして今後、どのような多民族・多文化共生社会を構想し具体化するのか、それが問われなければならない。
その検証がなされなければ、立法措置ではなく政令・省令によって政府(および経済界)が伸縮自在に受け入れ拡大/縮小・停止できる「新たな入管体制」の下で、外国人に対する人権侵害が続くことになり、日本は国際人権機関からも国際社会からも「人権後進国」として指弾され続けるであろう。それは日本にとって不名誉であるばかりか、これからの日本社会を担う、日本および外国にルーツをもつ青年たちの夢と可能性を阻むことになる。
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1980年代、在日コリアンをはじめ在日外国人の指紋拒否の闘いが全国各地に拡がり、それに呼応して1987年、私たちは外キ協を結成した。その中で2000年、外国人登録法上の指紋押捺制度が全廃された。さらに私たちは、1980年代後半以降に急増した移住労働者・国際結婚移住者を迎えた日本社会には、在日外国人の基本的権利を明示した基本法が必要であると確信して1998年、「外国人住民基本法(案)」を提起した。これは、日本がすでに加入した国際人権諸条約に基づいて作成した市民法案であり、この社会を多民族・多文化共生社会へと作り変える法的基盤として、その制定を求めて毎年、国会請願署名を続けてきた。また各自治体に対しても、外国人住民施策の是正を繰り返し求めてきた。
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しかし政府は、こうした市民社会のさまざまな取り組みと外国人の声、国際人権機関の勧告を無視して、この30年間近く「外国人管理」を強化する法改悪を重ねてきた。そして今回出された改定案は、その是正と改善ではなく、さらなる管理強化のもとでの「新たな外国人労働者受け入れ」であり、ひいては「新たな入管体制」であるが故に、私たちはその廃案を求めざるをえない。
1.まず、外国人の権利を保障する基本的な法制度を構築しなければならない
そもそも日本が国際人権規約(自由権規約・社会権規約)に加入する際(1979年)に外国人人権基本法と国内人権機関が、人種差別撤廃条約に加入する際(1995年)に人種差別撤廃法が立法化されなければならなかった。それにもかかわらず、政府および国会はそれを怠った。
法務省が2017年3月に公表した『外国人住民調査報告書』に見る過酷な人種差別の実態を踏まえ、また自由権規約委員会や社会権規約委員会、人種差別撤廃委員会など国際人権機関からの度重なる勧告に基づいて、日本はまず基本的な人権法制度を整えなければならない。すなわち、?外国人住民基本法を制定すること、?人種差別撤廃基本法を制定すること、?パリ原則に基づく国内人権機関を設置すること、?移住労働者権利条約をはじめ未批准の国際人権条約に加入することである。
2.外国人技能実習制度をただちに廃止しなければならない
今回の入管法改定案における「特定技能」という新たな在留資格は、現行の「技能実習」制度を前提として、それを補完・拡充するものとしてある。しかし外国人技能実習制度は、「人材育成を通じた開発途上地域への技能の移転による国際協力を推進する」という目的とは裏腹に、実際には技能実習生は低賃金労働者として搾取・抑圧されている。法務省が調査した『失踪技能実習生の現状』の集計によっても、「低賃金」「低賃金(契約賃金以下)」「低賃金(最低賃金以下)」と回答した技能実習生が67.2%となっており、また彼ら彼女らの回答の中には、89%が本国では送り出し機関に支払う資金(保証金や手数料、不当に高額な渡航費用)を「借金」して渡日していること、さらに日本の職場では日常的に暴力を受けたり帰国を強制されるなど、人権侵害の明らかな事例が散見される。このように、建前と実態とが乖離する一方の外国人技能実習生制度は、ただちに廃止すべきである。
3.在留資格「特定技能」を新設するという入管法改定案を廃案としなければならない
入管法改定案における「特定技能1号」は、現行の技能実習生と同様、家族の帯同を認めないとしている。特定技能1号も2号も、法務省の説明では「入国・在留を認めた分野での転職可」としているが、法案には明記されていない。また、直接雇用の他、派遣労働もあり得るとしている。さらに、技能実習生制度と同様に、本国での送り出し機関/日本での受け入れ機関から、悪質な仲介業者を排除する法文上の規定はない。賃金については、技能実習制度では(実態と乖離しているとはいえ)「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上」と定められているが、特定技能については法務省令で定める、としているだけである。その上、受け入れ機関のパスポートの取り上げや強制帰国を禁止する規定もない。
4.「出入国在留管理庁」を設置するという法務省設置法の改定案を廃案としなければならい
これまで法務省入管局は、外国人に対する管理を強化し続けてきた。さらに今回の改定案は、在留管理を強化すると共に、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を実施していく関係省庁間の「総合的調整機能を持つ司令塔的役割を果たす」ために、法務省の外局に「出入国在留管理庁」を設置するとしている。
いま法務省が主導して作成中の「総合的対応策」には、「?意見聴取・啓発活動、?生活者としての外国人に対する支援、?外国人材の円滑な受入れの促進に向けた取組、?新たな在留管理体制の構築」という4本柱を立てているが、もっぱら?に注力しようとしているのは明らかである。
そもそも法令において「管理」という言葉は、「公権力が、人の生活関係に介入して、その意思にかかわりなく、又はその意思を排除して、外部的にこれを規律する措置を意味する」(林修三・高辻雅己ら編纂『法令用語辞典』学陽書房)というものである。人間を直接対象として「管理する」ことを法目的として掲げている法律は、入管法とこの法務省設置法だけである。そのような意味でも、「管理」をかかげる官署が、「共生のための総合的対応策」を策定し運用することなどできるはずはない。
5.包括的な移民政策・人権政策へと転換しなければならない
すでに日本で暮らしている外国人住民は270万人以上となり、外国にルーツをもつ日本国籍者は少なくても160万人以上となる。政府がいくら否定しようとも、すでに日本は「移民社会」であり「多民族・多文化社会」なのである。それにふさわしい法制度を早急に整えなければならない。
「移住の流れは、日本における永続的な現実になっている。だからこそ、移住者が日本社会のかけがえのない一員として、自らの権利と可能性を有意義に行使できるような状況を作り出す、長期的な展望と政策が、一刻も早く必要なのである」「日本は、国際人権法と国際人権規準に基づいて、国レベルで包括的な移民政策をとるべきである」(移住者の人権に関する国連特別報告者の日本報告書para.35・76、2011年)
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