【訃報】 ジャン・バニエさん(「ラルシュ」創設者、カトリック思想家) 2019年5月7日
フランス系カナダ人のカトリック思想家で「ラルシュ」創設者ジャン・バニエ氏が、5月7日午前2時10分、親族に見守られ、パリで死去した。90歳。1928年生まれ。葬儀は16日、「ラルシュ」発祥の地、北フランスのトロリー・ブレイユ村で行われる。
フランス語で「方舟」を意味する「ラルシュ」は、バニエ氏が1964年に創設した知的障がいや発達障がいなどのハンディを持つ人々と持たない人々の共同体。38カ国に154あり、日本では静岡に「ラルシュ かなの家」がある。「国際ラルシュ連盟」は、死去の数日前に残したメッセージは「私は深い平安と信頼の中にある。未来はどうなるか分からないが、神は良いお方であり、何が起ころうともそれは最善である。私は幸せで、すべてに感謝している。あなたがた一人一人に心からの愛を」と述べていた。
バニエ氏は、71年には知的ハンディを持つ人々とその家族や友人たちのためのネットワーク「信仰と光」を活動家マリー=エレーヌ・マテュー氏と共同で創設、そのグループは世界86カ国に広がっている。2015年には「宗教界のノーベル賞」と呼ばれているテンプルトン賞を受賞したほか、霊性に関する多くの著作を残している。主な邦訳書は以下の通り。(CJC)
『共同体 ゆるしと祭りの場』(1983年、女子パウロ会)
『ひとつとなるために生命の破れと光』(1994年、日本キリスト教団出版局)
『小さき者からの光』(1994年、あめんどう)
『心貧しき者の幸い』(1996年、あめんどう)
『ラルシュのこころ小さな者とともに神に生かされる日々』(2001年、一麦出版社)
『コミュニティ』(2003年、一麦出版社)
『うつを越えて』(2004年、女子パウロ会)
『人間になる』(2005年、新教出版社)
以下の予定で追悼ミサが行われる。
・日時:5月29日(水)17:30~18:30
・場所:ラルシュかなの家(静岡市葵区安倍口新田65-5) つどい
・司式:市岡之俊氏(カトリック茅ヶ崎教会主任司祭)
横井圭介さん(ラルシュ「かなのすまい」管理者)のコメント
ジャン・バニエさんとはフランスでの「リトリート」という集まりの中で、トロリーの「ラ・フェルム」という農機具小屋のような聖堂での出会いが始まりでした。ミサの際、聖堂の一番後ろの小さな椅子に座っているのが印象的でした。背も非常に高く、多くの功績を上げてきた方なのに、「俺はここにいるぞ」とまったく主張せず、ちょこんと座っている、その姿に謙遜さを強く感じました。
かつて私は人生に悩み「もう自分なんか消えたほうがいい」と感じた瞬間がありました。その時ふらっと立ち寄った場所に偶然あった本が『うつを越えて』(女子パウロ会)。それを読んだ後で我に返り号泣し、また歩き出せたという経験があります。「あなたは大切な存在ですよ」と本が語りかけてきたのです。その時はバニエさんのことも知らず、ラルシュのことも知りませんでした。
「日本から来ました」とあいさつをしたところ、満面の笑みになられ、私の手を強く、そして温かく握ってくれ「ありがとう」と返してくれました。かつて本が語ってくれた、「あなたは大切な存在ですよ」という眼差しがそこにあったことを、今でも強く思い出します。
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