【東アジアのリアル】 同性婚合法化に向かう台湾社会と教会の反応 藤野陽平 2019年5月11日
台湾の裁判所は2017年5月、同性婚を認めない現状を「違憲」と判断、2年以内の対応を求めてきた。蔡英文民進党政権はこの問題を重要課題として積極的に合法化を進めてきたのだが、2018年11月の統一地方選と同日に行われた国民投票で大敗。その勢いに陰りが見られ、民法の改正は断念し、特別法案として4月21日閣議決定、5月中の成立に向けて最終段階に入った。
2018年10月にアジア最大のプライドパレード(性的マイノリティによるパレード)、台北プライド(参加者13万7千人、主催者発表)が行われ、キリスト教関係のグループも参加した。その中心的存在は同光同志長老教会である。台湾初の同性愛のクリスチャンのためのグループ「ヨナタン会」(約拿單團契、1995年成立)から発展した本教会は、台湾においてこの問題を正面から扱う教会の草分け的存在である。また激揚Amplify⑱というLGBTIQの教会やミニストリーを支援する国際的なキリスト教系NPOは10月25日から28日に国際会議を開催。27日の台北プライドにも参加し、この団体を通じてアジア太平洋諸国から参加者が集まった。その他にも複数のLGBTフレンドリーの教会やその関係者の参加が見られた。
ただし、こうしてプライドパレードにキリスト教系の団体が積極的に参加しているからといって、台湾のキリスト教界が同性婚に好意的かといえば決してそうではない。上述のとおり同性婚の合法化は与党民進党の政策であるので、野党国民党と関係が近い国語教会と呼ばれる大多数のプロテスタント教会は反対する。従来、国語教会は政治と宗教は別であり、積極的に関与する教会(具体的には国民党に反対する台湾基督長老教会、以下長老教会)を批判してきたのだが、この問題に関しては手のひらを返したかのように態度を一変させ、積極的に反対の政治活動を行った。
対して台湾語教会と呼ばれる台湾アイデンティティの強い教会はどう動いているのか。その代表的存在である長老教会は賛成派と反対派とで意見が二分している。台湾の民主化運動において民進党の前身となる党外運動の時代から共闘してきたという背景から、長老教会は今日でも民進党を中心とするグループと政治的な歩調を合わせている。そのため賛成派は国民党の独裁政権期に人権を蹂躙されてきた社会的マイノリティに対して共感的であり、性的マイノリティに対しても友好的なスタンスをとる。一方で反対派は社会的なマイノリティへの共感という姿勢は保持しつつも、神学的立場から同性婚は認められないというスタンスをとる。長老教会では両者の考えを尊重し、討論会を開くなどし、議論を続けている。このように長老教会はそれ以外のプロテスタント教会とは異なり、どちらともとれる態度をとっている。
以上、同性婚合法化に向けた台湾におけるキリスト教の見取り図を示してみた。中国か台湾かという従来からの問題に加え、キリスト教と性的マイノリティという別の座標軸が存在している。重要なのは特別法施行後の動向だ。2020年1月には大統領選挙と国会議員選挙が行われる。同性婚合法化に舵を切った台湾社会において、当事者や取り巻く社会で何が起きていくのだろうか。
藤野陽平
ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュ ニケーション研究院准教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学―社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。