【宗教リテラシー向上委員会】 ここが変だよ! スリランカ事件!! ナセル永野 2019年5月21日

 イースター礼拝が行われる教会で惨事が起こった。4月21日、スリランカにある複数のキリスト教会や高級ホテルで爆発があり253人が死亡した。この事件の第一報を聞いた時、犯行は仏教過激派組織によるものだと私は予想していた。

 事件から数日後、私の予想に反して事件はイスラム過激派によるものだと断定された。しかし、どうも私は今回の事件は腑に落ちない点が多い。

 近年、スリランカでは過激な仏教組織が勢力を伸ばしている。2017年にはスリランカに難民として逃れてきたイスラム系の少数民族「ロヒンギャ」の保護施設を仏教僧らが襲撃する事件が発生。さらに2018年には仏教徒によって多数のモスクが破壊されたことから宗教対立が激化し、全土に非常事態宣言が発令される事態となった。

 仏教過激派組織の攻撃の対象はムスリムだけでない。キリスト教徒やその他マイノリティへの脅迫、暴力事件も多発していた。仏教徒によるキリスト教会・キリスト教徒への襲撃事件は昨年だけでも80件以上発生しているという報告もある。

 このような経緯から考えて、ターゲットが仏教寺院ならばイスラム過激派の犯行として納得がいく。しかし、同じく迫害を受けてきた少数派のキリスト教徒を攻撃したことが私には不自然に思えてならない。

 また、事件が起きたタイミングも極めて不自然だ。事件より3日前の4月19日にはポヤデー(満月祭)と呼ばれる仏教的な祝日があったばかりだ。なぜ犯人は人口の約70%の仏教徒の聖日であるポヤデーではなく、わずか8%程度にすぎないキリスト教徒のイースター礼拝を狙ったのだろうか。

 さらに言及すれば、今年はラマダンが5月6日から始まる。もし本当にムスリムによる犯行であれば、宗教性が高まるラマダン中に犯行に及ぶと考えるべきなのだ。なぜラマダン直前のタイミングで事件を起こしたのだろうか。どうして2週間だけ後ろ倒しにすることをしなかったのか。

 いずれにせよ「イスラム過激派によるテロ」と断定されて以降、スリランカでは数日で70人以上のムスリムがテロの容疑として逮捕される事態になっている。当然ながら多くのムスリムが「いつ逮捕されるか分からない」という不安を抱きながら生活を送っており、疑心暗鬼の状態が続いている。さらに報復としてキリスト教徒がムスリムを襲撃するなど、社会の混乱が続いている。

 そして今回の事件の余波は日本にも及んでいる。犯行グループのリーダーとされているザフラン・ハシム(別名モハメド・ザフラン)が2009年に来日、約1カ月間日本に滞在しモスクで講義を行っていたことも明らかとなったのだ。

 日本のスリランカ人コミュニティーの女性(ムスリム)は「今回の事件で日本に住むスリランカ人の集会があったようです。しかし、同じスリランカ人でもムスリムは呼んでくれませんでした」「今後、私たちは(警察に)かなりマークされることになるでしょう」と話してくれた。

 あくまでも個人的な意見ではあるが、どう考えても今回のスリランカの事件は不可解で納得できない点が多すぎる。仮に犯行が本当にムスリムによるものだとしたら宗教という大枠ではなく、別の可能性も十分に考えられる。

 しかし、残念ながら今回の事件の真実が明らかになる日は来ないだろう。「イスラム=テロ」という固定概念から脱却し、この不可解な現実に疑問を抱くという選択肢を抹消している限りは……。

ナセル永野(日本人ムスリム)
 なせる・ながの 1984年、千葉県生まれ。大学・大学院とイスラム研究を行い2008年にイスラムへ入信。超宗教コミュニティラジオ「ピカステ」(http://pika.st)、宗教ワークショップグループ「WORKSHOPAID」(https://www.facebook.com/workshopaid)などの活動をとおして積極的に宗教間対話を行っている。

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