日本基督教団・在日大韓基督教会 共同で「平和メッセージ」 2019年8月11日
日本基督教団(石橋秀雄総会議長)、在日大韓基督教会(金鐘賢総会長)は8月1日、「わたしたちを結びあわせる主イエス・キリストは、十字架によって敵意の中垣を壊し、二つのものを一つにしてくださる和解と平和の主であることを信じ」、「平和メッセージ」を公表した。両教団は1984年に宣教協約を締結してから35年目を迎える。
メッセージは「天皇の代替わり」に触れる中で、「日韓関係における旧日本軍『慰安婦』問題や、いわゆる『徴用工』問題などの根底に、……戦後責任の問題が横たわって」いるとし、「北東アジアにおいて日本が真実に和解と平和を構築する道をたどるために、戦争と植民地支配の歴史にかかわる戦後責任を自覚し、表明し続けます」と宣言。「地球を席巻する過酷なグローバル経済の下で激変していく社会にあって、この世に遣わされたキリストの体なる教会として、寄留者を歓待の精神で迎えながら、単にナショナルな教会ではなく、寄留者が招き入れられる『神の家族』(エフェソ書2:19)として改革されていくことが求められています」と結んでいる。
全文は以下の通り。
2019年 日本基督教団・在日大韓基督教会 平和メッセージ
日本基督教団と在日大韓基督教会は、1984年に宣教協約を締結してから35年の歴史を神に導かれてきました。わたしたちを結びあわせる主イエス・キリストは、十字架によって敵意の中垣を壊し、二つのものを一つにしてくださる和解と平和の主であることを信じ、以下の平和メッセージを宣言いたします。
<天皇の代替わりをめぐって>
本年5月、天皇の代替わりに伴い、改元が実施されました。しかし、国民が主権者であるべき日本において、社会生活の時間が天皇の交替に支配されることに強い疑念を覚えます。また、天皇の交替にともなって一連の行事が神道の装いのもとに行われています。とくに秋に予定されている大嘗祭は、神道行事そのものにほかなりません。これらが公の行事として行われることは、憲法の定める政教分離原則に違背し、基本的人権である信教の自由を侵害するものです。
明仁前天皇は、沖縄をはじめ太平洋諸島への「追悼の旅」を繰り返してきました。そこに平和を願う意思は表されたものの、かつての戦争と植民地支配にかかわった昭和天皇の責任が表明されることはありませんでした。戦後74年間、日本の国民と政府が、天皇と日本国家の歴史責任を不問に付してきた姿勢がそこに現れているともいえます。日韓関係における旧日本軍「慰安婦」問題や、いわゆる「徴用工」問題などの根底に、こうした戦後責任の問題が横たわっています。わたしたちは、北東アジアにおいて日本が真実に和解と平和を構築する道をたどるために、戦争と植民地支配の歴史にかかわる戦後責任を自覚し、表明し続けます。
<憲法第9条と安保問題をめぐって>
今、沖縄の民意を踏みにじり、また環境破壊をも伴って、辺野古米軍基地建設工事が強行されています。主権国家であるはずの日本が、日米安保条約と日米地位協定によって米国に従属させられていることのあからさまなしるしです。わたしたちは、沖縄の人びとの辺野古基地反対の声を支持し、連帯していきます。
安倍政権は、北朝鮮や中国の脅威を過度に強調し対決姿勢をあらわにしながら、武器輸出三原則見直し(2014年4月)、集団的自衛権行使容認(同年7月)、安保関連法制(2015年9月)に続き、憲法第9条への自衛隊明記を主張し、戦争のできる国への道を突き進もうとしています。しかし、永久の戦争放棄と戦力不保持を定め交戦権を否定した現行憲法第9条は、世界平和の象徴であり、また世界への約束です。わたしたちは、キリストの平和の福音に基づき、憲法第9条改定に断固反対するとともに、日本と朝鮮半島の非核・平和の道の構築を宣教の使命として、目指します。
<原子力行政と福島放射線健康被害をめぐって>
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所爆発事故は世界に影響を及ぼし、ドイツなどの諸国が原発の縮小・廃止へと政策を転換しました。しかし日本政府は従来通りの原子力政策に固執し、放射線被ばく被害(甲状腺がんなど)の徹底究明どころか、原発事故と健康被害との関連性さえ認めようとしていません。自然環境の取り返しのつかない破壊をももたらしかねない政府の姿勢には、核兵器開発のもくろみも疑われています。わたしたちは、政府と東京電力のこうした姿勢への怒りと憂慮を表明するとともに、脱原発の道を提唱し、また放射線健康被害状況の徹底究明を求めます。
<ヘイトスピーチ問題をめぐって>
2016年6月にヘイトスピーチ解消法が施行されましたが、罰則の伴わない理念法にとどまっています。街頭やインターネット上での在日コリアンに対するヘイトスピーチ行動は止むことがなく、その広がりは深刻です。1923年の関東大震災の際には、こうした差別的流言飛語によって朝鮮人虐殺事件が起こったことを忘れてはなりません。わたしたちは、いのちを脅かし社会を頽廃させるヘイトスピーチの防止のため、より徹底した法改正を強く望みます。
<朝鮮高校無償化問題をめぐって>
日本政府は、北朝鮮との間の外交上の問題を理由に、理不尽にも朝鮮高校を高校無償化の対象から除外しています。これは在日コリアンに対する明白な民族差別であり、子どもの教育権に対する侵害行為として、国連人権機関も再三、是正を勧告しています。わたしたちは、日本政府が差別政策を即時撤回し、朝鮮高校の無償化を実現するよう求めます。
<在日外国人政策をめぐって>
日本社会の労働力不足に伴い、「技能実習制度」が実施されて10年になりますが、国際貢献という法目的と全くちがって、外国人を低賃金労働力として酷使し、深刻な人権侵害がもたらされています。また、昨年の入管法改定によって、新たに「特定技能1号・2号」という在留資格が設置されましたが、これは技能実習生の在留期間を引き延ばし、低賃金労働体制を温存するものです。
現在、すでに在日外国人280万人、外国人労働者がおよそ150万人に及ぶいっぽう、1万人を超える在日外国人児童が未就学状態に置かれています。わたしたちは、日本政府が、外国人労働者を使い捨てる発想に基づく入管行政を改め、共生を尊重する政策へ転換することを強く願います。
わたしたちの教会は今、地球を席巻する過酷なグローバル経済の下で激変していく社会にあって、この世に遣わされたキリストの体なる教会として、寄留者を歓待の精神で迎えながら、単にナショナルな教会ではなく、寄留者が招き入れられる「神の家族」(エフェソ書2:19)として改革されて行くことが求められています。それは同時に、教会自体が今から次の時代へと、頭なる主にイエス・キリストによって生かされ、遣わされ、用いられる道であると考えます。
2019年8月
日本基督教団 総会議長 石橋 秀雄
在日大韓基督教会 総会長 金 鐘 賢