8月に改めて「平和」を考える 映画『野火』アンコール上映中 塚本晋也監督インタビュー 2019年8月11日
2015年7月、安保関連法案の強行採決に社会が揺れていたころ、渋谷の小さな劇場で公開された映画『野火』。戦争の恐ろしさをリアルに描いた同作は、時代の空気を鋭く捉え、大きな評判を呼んだ。あれから8月を迎えるたびに、各地でのアンコール上映が続いている。2017年、雑誌「Ministry」が行った塚本晋也監督へのインタビューから再録する。(構成 猪俣沙織)
浮かび上がってきた戦争
僕の印象では、戦争をしたいという動きは常に水面下にあって、それでも戦争の恐ろしさや傷みを体験した方々がいらっしゃることで、まだ阻止する力が働いていたと思います。でも、そうした方々がいなくなるのを待っていたかのように、水面下から暗黒のクジラのようにくっきりとした輪郭で浮び上ってきた。今やらないとたいへんだと思い『野火』を撮りました。映画化は20年ほど前から模索していましたが、やはりスポンサーがつかず、自主制作するしかありませんでした。
『野火』を撮り始めたころも、戦争への危機感を持つ人たちの発言に対して、不思議なくらい口汚い言葉で抑えつける人たちがいました。ならば、圧倒的な力で覚醒してもらうような映画を撮って観てもらおうと。ただし、その映画には政治的なメッセージは入れない。映画を観た人がどのように感じてもいいんです。「こんなひどい世界になるなら軍備を整えよう」と思う人もいるかもしれません。でも、「こんな世界に近づくのはごめんだ」と感じるならば、回避するために戦争以外の方法を考えてくれると願っていますし、それはきっと伝わると信じています。
大切にしてきた素晴らしい理想
実際には原作者である大岡昇平さんの思いも伝わり、老若男女に観ていただけました。戦争を体験した気分になった若い人たちが、劇場から出て渋谷の街がゆがんで見えて「ああ、これが現実でよかった」「今が戦争じゃなくてよかった」と感じたそうです。これこそが僕の狙いでもありました。そのころ、国会前では自民党の憲法改定に反対する人々が集まり、若者たちが声を上げていた。まさに時代の空気とシンクロしていきました。
せっかく70年間戦争をしないできたのに、さらにはっきりと戦争の方に引き寄せられています。無理があっても軋みが来ても、旗として掲げてきた憲法は、きれいごとに見えるかもしれませんが、大切にしてきた素晴らしい理想です。70年間も戦争をしないことが尋常でない美しさであるなら、「普通の国」でなくてもいい。異常なほど美しい輝きをもって、他国とは一線を画した国でいい。戦争の加害と被害、そして二つの原爆を経験した日本だから唯一「戦争はしません」と言ってもおかしくないはずです。
つかもと・しんや 1960年東京生まれ。日本大学芸術学部卒。89年『鉄男』で劇場映画デビュー。主な監督作品に『バレット・バレエ』『六月の蛇』『野火』『斬、』ほか。出演作は『シン・ゴジラ』『沈黙-サイレンス-』ほか多数。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』に副島正道IOC委員役で出演。
今後の上映日程
【青森】フォーラム八戸 8月9日(金)~15日(木)
【岩手】フォーラム盛岡 8月9日(金)~15日(木)
【宮城】フォーラム仙台 8月23日(金)~29日(木)
【福島】フォーラム福島 8月16日(金)
【茨城】あまや座 8月10日(土)~16日(金)/土浦セントラルシネマズ 8月11日(日)、8月19日(月)~終了日未定
【群馬】高崎電気館 8月12日(月)、8月16日(金)、8月17日(土)
【埼玉】川越スカラ座 8月10日(土)~16日(金)/深谷シネマ8月11日(日)~17日(土)
【東京】渋谷ユーロスペース 8月15日(木)
【神奈川】横浜シネマリン 8月12日(月・休)/横浜シネマ・ジャック&ベティ 8月15日(木)/川崎市市民ミュージアム 8月17日(土)、8月18日(日)
【千葉】キネマ旬報シアター 8月11日(日)、8月13日(水)、8月15日(木)/シネマイクスピアリ 9月21日(土)~27日(金)
【長野】長野相生座・ロキシー 8月24日(土)~30日(金)/松本市波田文化センター 8月24日(土)
【愛知】シネマスコーレ 8月17日(土)、8月21日(水)~23日(金)
【新潟】高田世界館 8月24日(土)~30日(金)
【京都】京都シネマ 8月10日(土)~16日(金)
【大阪】シアターセブン 8月11日(日)~16日(金)/シネ・ヌーヴォX 9月7日(土)~13日(金)
【愛媛】シネマルナティック 8月15日(木)
【大分】別府ブルーバード劇場 8月13日(火)~16日(金)
【鹿児島】ガーデンズシネマ 8月14日(水)、8月15日(木)
【沖縄】ゆいロードシアター 8月12日(月・休)~31日(土)
*インタビュー全文は『宗教改革2.0へ』(ころから)に収録。
©SHINYA TSUKAMOTO/ KAIJYU THEATER