【教皇来日】 「信徒の自立と覚醒」――教会が変革を 来日後の変化に期待 山内継祐(フリープレス代表取締役)

 38年前のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世来日時に、「公式記録」の編集長として取材・執筆・制作の前線指揮にあたった山内継祐氏(フリープレス代表取締役)は、今回の来日をどう見たのか。カトリックメディアの立場から話を聞いた。

 教皇の来日自体は、多くのカトリック関係者が歓迎していました。しかし来日の直前まで、報道関係者に情報がまったく伝わらず、ふたを開けたら驚くほどの過密スケジュールで、高齢の教皇の体調がもつかと心配しました。公式行事の運営を大手広告代理店に委ねたために、カトリック中央協議会の広報担当職員もカトリック新聞の幹部も行事運営の詳細を把握できていないあり様。教会の中に広報の司令塔がいないという異例の事態のままで教皇を迎えたのです。3カ月前には会う人も訪れる場所も決まっていた38年前の、ヨハネ・パウロ二世訪日時とはまったく様相が異なりました。

 第二バチカン公会議後、パウロ6世のころから教会の宣教司牧方針は目に見えて変わってきています。諸宗教との対話や、世界の為政者に対するリーダーシップある価値観の提示など、それまでになかった傾向がかなり鮮烈に出てきた印象です。ただ司祭による未成年者性虐待の問題が発覚して以後、新たに選ばれたフランシスコ教皇に期待されたのは、役所としての教皇庁の刷新と、世界中で弾けた「聖職者による性虐待問題」への対処でした。この問題では性虐待被害者への謝罪、加害司祭の処分、再発防止策の徹底が求められて今日に至ります。日本国内でも、同様の問題が複数あることはすでに判明しているのですが、対応は鈍く、公の説明が十分とは言えません。本来は知らされるべき情報が信徒に周知されていないことが一番の問題です。

 この間、アマゾンシノドスなど世界の動きを見ると、司祭の妻帯や女性の司祭叙階が認められるのは時間の問題かもしれません。聖職を男性に頼ってきたカトリックの伝統は、いわゆる「教義」ではないので、合法的な変更があり得るでしょう。一方で、司祭がみんな結婚したとしたら、信徒である私たちが彼らの生活を支えられるかと考えると、頭を抱えてしまう現実もあります。

 もう一つの懸念材料は中国です。昨年バチカンが融和政策にかじを切り、中国と暫定合意を結んで、共産政府公認組織である愛国協会側の司教の叙階に有効性を認め、二つの教会の間で〝相互乗り入れ〟が可能となってしまったために、地下教会は壊滅的な状態にまで追い込まれています。香港教会や台湾教会との関係をどうするのかという課題も積み残されたまま。地下教会の要請に応えるとしたら、韓国か日本の教会しかありませんが、今回、出迎えた司教らの中に、この問題に関わる高位聖職者の顔も見られたところから、水面下で何らかの指針や指示が与えられたのかもしれません。

 今回、来日した教皇が直接、信徒に語りかける中では、教会運営に義務と権利を与えられている信徒の自立と覚醒を促してほしいというのが個人的な願いでした。教皇の明確なお墨付きがないと、古いタイプの司教や司祭の前では、信徒として果たすべき役割が十分に果たせないからです。教皇来日後のカトリック教会がどう変わるのかに注目したいと思います。

 やまうち・けいすけ 1942年、熊本生まれ。中央大学卒業後、主婦の友社第一編集局を経て、講談社『週刊現代』記者。月刊誌『カトリックグラフ』編集、コルベ出版社代表取締役主幹などを歴任。81年の教皇来日時には「公式記録」編集長を務めた。

撮影=山名敏郎

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