移住と伝播 アジア太平洋地域の「英語」とキリスト教 2020年1月12日
「アジア太平洋地域キリスト教関連資料活用ネットワーク」が1月11日、京都大学(京都市左京区)で「移住と伝播――アジア太平洋地域におけるキリスト教関連資料、およびその活用」をテーマとする学術ワークショップを開催した。昨今、「越境」「移動」を課題とする研究状況を反映して、多彩な観点からの報告がなされた。
洪伊杓(ホン・イピョ)氏は「19-20世紀朝鮮半島における日米キリスト者の移住と伝播」と題して、日本に併合された韓国のハワイとの交流を報告。芦名定道氏は「アジア太平洋地域のキリスト教の相互交流」に関する研究蓄積を指摘して、アメリカ・ハワイ、日本・沖縄、台湾という射程の中で「聖書翻訳」という研究の交流地点を示した。
家入葉子、福永眞理子、守家輝の3氏による共同発表は「19世紀ハワイのキリスト教関連資料のコーパス化」の実例を紹介。その言語分析の結果から、英語学において比較的手薄な「19世紀の英語」探求の可能性を提示した。
朝日祥之氏は映像資料を用いて「ハワイの日本語形成における社会ネットワークと宗教の役割」として、移民の言語史の一端を垣間見せた。スティグ・リンドバーグ氏は、クリスチャンで在ホノルル日本国総領事を務め、のちに禁酒運動で有名になる安藤太郎が「ハワイのキリスト教コミュニティと日本人」で果たした役割に言及。
吉田亮氏は、O・H・ギューリックを中心に「19世紀末~20世紀初頭、ハワイ・日本プロテスタント関係史」を緻密に紐解いて、発表全体との有機的なつながりを付けた。廣部泉氏は、吉田氏が扱ったO・H・ギューリックの甥にあたる、シドニー・L・ギューリックの視点から「日米関係史」に光を当てた。
「宣教師」を視点に、キリスト教の「移動」と「伝搬」という視点から環太平洋域における日本語の変遷、また社会学的動態は、思想研究の基礎となる。このような分野横断的な研究の前進は、「移民」大国と化した我が国においてアクチュアルな意味を持つだろう。(各氏の所属などは省略、同ネットワークへの連絡は家入・芦名両氏へ 京都大学大学院・文学研究科宛)