【映画評】 コロナ禍のイースターに『復活の日』を観る 2020年4月11日

 例年より暗い「復活祭」、不穏な4月。自粛ついでに引きこもって何を観て読むべきか。小説家・小松左京(1931~2011年)原作の映画『復活の日』をお薦めしたい。言うまでもなく、小松は星新一(1926~1997年)と筒井康隆(1934年~)と日本を代表するSF作家だ。

 映画『復活の日』は、1964年の原作小説をもとに、深作欣二(1930~2003年)監督によって1980年に同名で映画化された。草刈正雄、千葉真一、E.J.オルモスら名優が出演。30億円に及んだ製作費によって、南北アメリカ大陸を縦断、南極ロケを敢行。さらにチリ海軍の潜水艦や哨戒艦をチャーターして話題となった。

 では、なぜ今、小松左京『復活の日』なのか。実は、いまSNS上でこの映画が話題になっている。ストーリーがコロナ災禍にうめく世界の現状に合致しているからだ。事実、4月初旬時点で原作の新装文庫版(2018年発売)は、Amazon.jp「SF・ホラー・ファンタジー」売れ筋ランキングで第1位となっている。

 映画『復活の日』はどのような内容か。以下に、ネタバレにならない程度に要約しておく。

 『復活の日』は東西冷戦の最中、開発されたウイルス兵器「MM-88」が漏洩し、世界各地で疫病が蔓延する様子を描く。当初「イタリア風邪」と名付けられた疫病は「致死率45%、死者3500万人」を確認。しかし、瞬く間に、さらなる猛威を振い、南極など寒冷地以外に住む人類をほぼ死滅させてしまう。

 物語の語り手となるのは、昭和基地・南極観測隊の地震学者・吉住。彼の目を通してパンデミックと大パニック、医療崩壊、都市封鎖、軍部の陰謀、社会の破滅が描かれていく。しかし、それだけでは終わらない。吉住は米国における大地震の発生を予測し、結果的に、人類なき世界での核戦争の可能性が浮上する。しかも各国の南極基地もまた攻撃対象になっている。果たして、吉住ら生存者と人類の行方は――。

 言うまでもなく「東西冷戦と核の恐怖」という背景は、ソヴィエト崩壊後の21世紀には少し遠く感じられる。しかし「パンデミックに伴う大パニック」の描写は、現在においても十分アクチュアルである。

 特に映画後半のある場面は、キリスト者にとって印象的だ。南米のどこかの教会で、吉住が崩落したキリスト磔刑像に話しかけている。「あなたは何をしているのですか そんな所で ひとりで…… 答えてくれませんね では いつまでもそこに寝ていなさい」

 多くのキリスト者にとって「疫病」は聖書を通じてなじみ深いものだろう。しかし、現実のパンデミックを前にしてキリスト者は何を祈るべきか。吉住の問いかけは、あらゆる宗教の神仏超越とその「沈黙」に向けられている。十字架上で「我が神よ、どうしてわたしをお見捨てになったのか」と問うキリスト。そのキリストに対し、「神」をただす人類の姿。

 パンデミックの最中に迎える「復活の日」に、吉住の問いかけが自粛で空っぽの会堂に響いている。

(「キリスト新聞」関西分室研究員 波勢邦生)

【作品概要】
監督:深作欣二
脚本:高田宏治、深作欣二、グレゴリー・ナップ
原作:小松左京
製作:角川春樹
出演者:草刈正雄、ボー・スヴェンソン、オリヴィア・ハッセーほか
配給:東宝
1980年/日本/156分/カラー

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