【宗教リテラシー向上委員会】 コロナ禍におけるハラール対応(1) 小村明子 2020年11月21日
コロナ禍にある現在、日本のインバウンドはいうまでもなく、大打撃を被っている。もちろん訪日外国人観光客がいないのだから、外国人相手の店舗も同様に打撃を被っている。
似たような状況は、ムスリム観光客へのおもてなし対応、いわゆる豚由来の食材やアルコールを使用していない、ムスリムが安心安全に食することのできるハラール食への対応においても言えるだろう。というのも、筆者は観光地に住んでいたこともあって日々の買い物などで周辺地域を通るたびに、ハラール対応のレストランが増えたのを実感し、また、土産物をおく食料品店で日本国内のハラール認定機関の審査を受けたことを証明するハラールマークを付けたお土産品や食品を取り扱うようになっていったのを目にしていたからである。ところがこのコロナ禍で日本のハラール対応、とりわけインバウンドにおけるハラールの現状は、芳しいものとは言えなくなった。
事実、訪日外国人観光客の多かった昨年末までは、ハラールレストランも活況を呈していた。ところが、2月ごろから日本にも感染者数が増え始めて世界情勢に変化が見え始めると、まずは外国人観光客の姿が、次に日本人観光客で高齢者の団体客の姿が見えなくなり、最後に感染しにくいといわれていた若い人たちの姿を多く見かけるのみとなった。4月に緊急事態宣言が出るや否や、もともと採算が合わなかったのかもしれないが、早々に看板を下ろしたハラール食対応のレストランもあった。
緊急事態宣言解除後の6月に観光地内のハラールレストランの状況を見にいくと、店の多くは依然閉店のまま長い間営業していなかった。その後も運動がてらいくつかのハラールレストランや土産物店の前を通ったが、体力のあるレストランは休業中のままであった。街中を散策しながらこうした状況を見ると、ムスリム観光客に特化した事業はかなり難しいと言わざるを得ない。
そもそもムスリム観光客へのおもてなし対応とはこれまでどういう対応であったのか。観光施設や空港およびターミナル駅などの公共交通機関の施設内における礼拝室の開設や、ハラール対応した食事を提供するレストラン、土産物店におけるハラールマークのついた食品の取り扱いなどが挙げられる。またこれらの情報を提供するインターネットサイトも開設されて少しずつ拡充されている。
こうしたムスリム観光客へのおもてなし対応は非ムスリムによるものが多く、しかも日本におけるイスラームの歴史においてはこれほどの対応は見られなかったため、非ムスリムの日本人が積極的にイスラームと関わりを持つようになったという点で一定の評価はあると言える。だが、日本で暮らす一部のムスリム、特に日本人改宗者の中には「ないよりかはましである」と意見を示す者もいる。というのも、こうしたハラール対応が最初から最後までムスリムが関わっているのか見えてこないからである。また、非ムスリムによるビジネスだから宗教を食い物にしているだけと捉えており、本当にハラール食を提供しているのかという疑問が生じていることにもあるためだ。中には、同じ仲間内で作ったものであるのならば信頼できるが、そうでない限りは口にできないと本音を話す者もいる。つまりは、非ムスリムによるムスリム観光客への対応は一見すると簡単にできるように見えるが、需要者側であるムスリム観光客の数が問題となるだけでなく、宗教が関わることもまた大きな課題となるためである。
では、非ムスリムがハラール対応するということは、何をどうすれば良いということなのだろうか。その詳細は次回に記したいと思う。
小村明子(立教大学兼任講師)
こむら・あきこ 東京都生まれ。日本のイスラームおよびムスリムを20年以上にわたり研究。現在は、地域振興と異文化理解についてフィールドワークを行っている。博士(地域研究)。著書に、『日本とイスラームが出会うとき――その歴史と可能性』(現代書館)、『日本のイスラーム』(朝日新聞出版)がある。