香港を覚える祈祷会 〝祈ること「しか」でなく、祈ること「こそ」〟 台湾から香港人神学者も報告 2021年1月9日
香港情勢を憂う超教派の有志牧師ら主催による「香港を覚えての祈祷会」第2回が12月21日、オンラインで開催された。前回(11月21日付本紙で既報)に引き続き、参加者を限定する形で約100人の牧師や信徒が参加した。
ヨハネによる福音書1章5節から「闇は光に勝たなかった」と題してメッセージを語った朝岡勝氏(日本同盟基督教団徳丸町キリスト教会牧師)は、この祈祷会の呼びかけ人として加わった際、香港に行ったこともない、知り合いもいない自分は場違いではないかとの葛藤を抱きながら、「分からなかったら教えてもらえばよい。知らないことは学べばよい。知り合いがいなければ出会えばよい」と思いを新たにしたことを打ち明けた。また、「何かを言っては批判され、何かを言わないと非難され、何かをするとやり過ぎだと言われ、何もしないと無関心だと言われる」現状について、そうした「闇の力」に立ち向かう必要性を訴え、「文字通り闇の中にあり、囚われの身となっている香港の愛する方々に主のみ手が速やかに伸ばされ、主の光が照らされ、闇が退けられ、光の勝利がもたらされることを信じて、祈ること『しか』でなく、祈ること『こそ』始めていこう」と祈祷会の意義を改めて強調した。
今回は、香港出身の神学者である孫宝玲氏(台湾神学研究院教授)=写真=が招かれ、「輝きを失いつつある東洋の真珠・香港」と題して緊迫する香港情勢について報告した。同氏は、SNSで自分の意見を表明しただけで国家政権転覆の容疑で逮捕・起訴され、国際報道ニュースをツイートしただけで「外国勢力との結託」の容疑で起訴されてしまう「不合理な」現実が今後も増えていくと予測した上で、最近取り締まりを受けた「良き隣人教会」(好鄰舍北区教会/Good Neighbour North District Church)を例に、キリスト者を含め「どんな組織も人も取り締まりの対象になり得るし、政府の力による悪意ある攻撃を免れることはできない」との懸念を示した。
香港政府とその背後にある中国共産党政権は、「香港2020福音宣言」(2019年5月)を公表した「香港牧師ネットワーク」の指導者たちを監視しているという。今後、香港に残ろうとするキリスト教指導者たちが直面する課題として孫氏は、2019年の逃亡犯条例改正案問題(あるいは2014年の雨傘運動以後)によって分裂し、互いに敵対してしまっている信徒を牧会しなければならないこと、政府からの圧力にも対峙しなければならないことを挙げた。
さらに、すでに香港を離れた人々のためにも祈るよう呼び掛け、日本が香港の牧師やキリスト者たちにとって「一時的でも避難場所と思えるような場所になれないか」と、互いに状況をアップデートしつつ、情報を共有するなどしてつながり合うことを提案した。
最後に、台湾に逃れてきた香港人の牧師・キリスト者たちの状況について、「台湾民間支援香港協会」や台湾基督長老教会が、積極的に支援に取り組んでいることを報告。台湾に一時滞在する許可を得ることができた2人の牧師がいること、台湾長老教会の済南教会の場所を借りている香港人の日曜礼拝の出席者が増え続けていることも紹介した。
これらの報告を受けて、参加者が声を合わせて祈った連祷の全文、孫氏の報告全文は以下の通り。朝岡氏のメッセージ(日本語全文)および連祷の中国語訳はこちら→ 第2回香港祈祷会中国語訳
香港を覚える祈祷会 第2回 連祷
司式) すべての支配、権威、勢力、主権の上にキリストを置かれた神様[1]、
私たちは、一年が終わろうとしているこの時、試練と暗闇の中にいる香港の兄弟姉妹のために、祈ります。
会衆) 失望の中にある兄弟姉妹のために執り成す、私たちの祈りをお聞きください。
司式) 自由と正義を得るために、それぞれの立場から力を尽くして来た兄弟姉妹でありますが、この一年で、より一層、困難が増し加わってしまいました。多くの逮捕者が出ただけでなく、国外に逃れなければならなかった人たちもいました。社会が分断してしまっただけでなく、あなたの教会の中でさえも分断が生じています。
会衆) いつまで、主よ、追い詰められている人々を忘れておられるのでしょうか。いつまで、御顔を彼らから隠しておられるのでしょうか[2]。主よ、わたしたちはあなたを呼びます。速やかにあなたを呼ぶ声に耳を傾けてください[3]。
司式) イスラエルはあなたに依り頼み、依り頼んで救われて来ました。助けを求めてあなたに叫び、救い出され、あなたに依り頼んで裏切られたことはありません[4]。失望を感じさせる状況の中でなお、「それでも、あなたこそ、私たちが依り頼むことができる唯一のお方です」[5]と祈る彼らの祈りに耳を傾けてください。
会衆) 主よ、あなただけは、彼らを遠く離れないでください。わたしたちの力の神よ、今すぐに彼らを助けてください[6]。
司式) まもなく今年もクリスマスを迎えようとしています。あなたが私たちと共におられることをインマヌエル[7]であるキリストにおいて示してくださったことを感謝します。飼い主のいない羊のように散り散りになりやすいあなたの群れのために、あなたは良い羊飼いをお与えくださいました。死の陰の谷を行くときにも災いを恐れなくて[8]済むように、あなたが共にいてくださり、香港の教会を分断から守り、政府に関わる人の心にあなたが触れてくださり、すべての人をキリストの内に一つとしてください。また難しい局面に立たされている中国大陸の教会をも、あなたが御手に内にお守りくださいますように。
会衆) 私たち日本の教会をも、香港の教会、また東アジアや世界の教会と、キリストの内に一つとしてください。それによって世の大きな力でさえも、天地の造り主であるあなたがキリストをお遣わしになったことを信じるようにしてください[9]。
全員) 希望の源であるあなたが、信仰によって得られるあらゆる喜びと平和とで、この世界に生きるキリスト者を満たし、聖霊の力によって希望に満ちあふれさせてくださいますように[10]。
[1] エフェソ1:21
[2] 詩編13:2
[3] 詩編141:1
[4] 詩編22:6
[5] 「深淵から呼び求める七日間の祈り」第二日目
[6] 詩編22:20
[7] マタイ1:23
[8] 詩編23:4
[9] ヨハネ17:21
[10] ローマ15:13
輝きを失いつつある東洋の真珠・香港 報告者:孫宝玲(SUN, Poling)牧師[1]
香港の状況は、誰も想像できなかったほどの速いスピードで悪化しています。私が申し上げているのは、特に、2019年2月に持ち上がってきた「逃亡犯条例改正案」(中国大陸への犯人引き渡しを可能とする条例)、またその後、2020年6月30日に可決された「香港国家安全維持法」のことです。
逃亡犯条例改正案は2019年10月23日に撤回されましたが、しかし国家安全維持法が今や香港の人々を苦しめ・抑圧する「くびき」となり、もはや集会の自由や言論の自由がなくなってしまいました。というのも、政府―実際には警察―が、国家安全維持法の「違反者」と見做した個人あるいは組織を、いとも簡単にそして恣意的に逮捕・起訴できてしまうからです。
ソーシャル・メディアで自分の意見を表明した若者は、それだけで国家政権転覆の容疑で逮捕・起訴されてしまいます。国際報道ニュースをツイートしただけで、「外国勢力との結託」の容疑で起訴されてしまいます。逃亡犯条例改正案反対運動で起訴された人たちを支援するために合法的に募金を募った人が、「資金洗浄」の容疑で起訴されてしまいます。実に馬鹿げた不合理なことばかりですが、こうしたケースは今後増えていくでしょう。
ここまでお話ししたことは全般的なことですが、しかし今の香港の現実です。立法会の尊敬されるような議員であっても、誰もが容易に犠牲者になり得えます。また例えば最近取り締まりを受けた「良き隣人教会」(好鄰舍北区教会/Good Neighbour North District Church)のように、どんな組織でも取り締まりの対象になり得ます。どんな人でも組織でも、政府の力による悪意ある攻撃を免れることはできないのです。
こうした概要からだけでも、香港のキリスト者たち、また良心・良識あるあらゆる人たちが置かれている危険な状況を十分にご理解いただけることでしょう。国家安全維持法の施行以来、香港政府とその背後にある権力は、香港市民のいかなる批判も許さず、国家すなわち実際には共産党に対する絶対的忠誠を市民に要求します。ですから、「香港牧師ネットワーク」が公表した「香港2020福音宣言」が、政府に挑戦的に受け止められたことは、容易に理解できるでしょう。政府とその背後にある権力(中国共産党政権)は香港牧師ネットワークを結成したキリスト教指導者たちを監視しています。
「香港2020福音宣言」は香港において長期的に福音を証し、牧会していくという意図をもって、2019年5月、香港牧師ネットワークが起草・発表したものです。その時もすでに非常に困難な時期でしたが、しかしその後今日私たちが目撃しているような状況にまで悪化するなどということは、その時にはまだ分からないでいました。
私自身の現状に対する見方、またキリスト教の指導者たち、特に牧師たちが、こうした状況にどのように対応していくことになるかについてお話しいたします。差し迫った危機、あるいはすでに起こってしまった危機から、二つのシナリオが考えられます。すなわち、一方では香港に残ろうとするクリスチャン・リーダーたちがいるでしょうし、他方では外国など他の場所に移ろうとするリーダーたち(中にはすでにそうした人たちもいますが)がいることでしょう。
留まることを決断する人々は、さらに二つの困難な状況に直面することになるでしょう。第一に、2019年の逃亡犯条例改正案問題(あるいは2014年の雨傘運動以後)によって分裂し、互いに敵対してしまっている信徒を牧会しなければなりません。第二に、更に悪いことには、体制派寄り/政府支持派の信徒たちは、政府に対する自分たちの考えや、政府支持派の人々の考えを牧師に訴えようとします。当然、教会の牧師やリーダーたちは、こうした問題に直面したり、政府からの圧力にも直面したりしなければならないでしょう。
「香港2020福音宣言」は6項目から成りますが、その一つ一つは、この腐敗し闇に落ちたような世界にあって、キリスト者が持つべきアイデンティティーと召命の基本を再確認することを呼びかけるものであり、権力・権威を誇示するものに対してチャレンジを投げかけるものです。
・第一項 イエス・キリストこそ、福音そのものである。
・第二項 イエス・キリストこそ、教会の唯一の主である。
・第三項 教会は、福音を宣べ伝える証人の共同体である。
・第四項 教会は、真理の柱また土台であり、虚偽を拒絶し、真理を堅く守る。
・第五項 霊性と行動は、不可分である。
・第六項 教会は、暗闇の時代にあって光の子である。
香港に留まり続ける牧師やリーダーたちが様々な迫害に遭うであろうことは、決して驚くべきことではありません。主イエス・キリストにある日本の同労者の皆さん、どうか彼らのために祈り、彼らのことを見守っていてください。そして様々なニュースを周りの方々にも伝え広げ、彼らのことが皆さんの国でも、また皆さんのネットワークを通して他の国々にでも知られるようにしてください。香港のニュース・メディアはすでに政府に飼いならされてしまい、YouTubeやFacebookまでもが「影響」を受け始めているようにも見られます。ですから、情報へのアクセスや拡散のチャンネルを発展・構築させていく戦略が重要になるでしょう。
すでに香港を離れた人々のためにも祈ってください。彼らの安全のために、また彼らが新しい場所での生活に慣れられるように、そして彼らの将来のチャンスのために、しかし同時に、彼らが抱えている将来的な不確実さ、フラストレーション、不安のためにも祈ってください。香港を離れて別の場所に行ったら行ったで、また別の課題があります。
もし可能であるならば、皆さんのネットワークやコネクションを活かし、自分の家・故郷(ホーム)とは呼べないような別の土地でさ迷っている人たちに、助けの手を差し伸べてください。
香港の近隣諸地域の中で、日本が、香港の牧師やクリスチャンたちにとって、たとえ一時的でも良いので、避難場所と思えるような場所になれないものでしょうか。もし可能であればの話ですが、その場合、いかにして日本に入国・滞在できるか、また費用の問題など、彼らが直面しなければならない諸課題があります。
今後、状況がどのようになるのか予測できることには限りがありますが、しかし主がなさろうとしている御心を祈り求め、主の御心を実践するためにも、私たちが互いに通常のできる範囲の方法で状況をアップデートし、情報を共有するなどして繋がり合うことを提案したいと思います。
最後に、台湾に逃れてきた香港人の牧師・キリスト者たちの状況について、お話したいと思います。「台湾民間支援香港協会」という組織があり、台湾にいるディアスポラ香港人のために積極的に支援活動をしてくれています。また、台湾基督長老教会も援助の手を差し伸べてくれています。台湾に逃れた二人の香港人牧師たち(私も個人的によく知っている人たちですが)は、台湾長老教会の援助のおかげで、台湾に一時滞在する許可を得ることができました。こうした台湾で実施されている様々な援助は、もちろんキリスト者だけに限定して行われているわけではなく、一般の学齢期の青少年たちも学校に通えるような援助を受けています。
しかし、台湾に逃れてきた香港人の仲間の中には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しむ人がいるということも聞いています。彼らの多くは、「投資移民」として台湾に移民してきた人たちです。
こうした状況がある一方で、台湾には政治亡命者に対する保護に関する法律が制定されていません。それはつまり、台湾政府は、家族滞在・旅行者・投資家・留学生・ビジネスマンではないような人たちに対応するための、規準となる法的手続きを持たない、ということを意味しています。確かに、台湾政府は香港人を援助する意思があることを公にしていますが、共産主義中国の台湾への浸透を防ぐことも見逃せない重要問題であるため、(移民・亡命受け入れの)手続きが非常に遅いのです。
とはいえ、こうした課題があるからといって、香港人が台湾に避難場所を見出そうとすることを思い留まるわけではありません。そのことは、台湾長老教会の済南教会の場所を借りている香港人の日曜礼拝の出席者が増え続けていることからもわかります。台北市内には、この他にもう一つ香港人の礼拝集会がありますが、いずれの集会であっても、台湾にいるこうした香港人たちが霊的に安らげる場所を見出し、新しい環境に慣れることができるよう、共に祈りましょう。
日本の皆様の、主イエス・キリストにある愛と祈りに感謝いたします。
祈り:天の父なる神様、私たちはあなたに祈り、叫び求めています。大きな暗闇と痛みが、香港人の上に差し迫っているからです。外国に散らされてしまった者たちは親しい家族や友人、慣れ親しんだ土地を離れ、またなお香港に残る者たちはさらに悪くなるばかりの日々に向き合わねばなりません。恐怖と・威嚇と・混乱と・無秩序に満ちた正義なき政権は、罪なき人々を無理やりに逮捕・勾留し、それは彼らを香港そのものと一緒に悪しき泥沼の中に連れ去っていくかのようです。
天の父なる神様、私たちはあなたに祈り、叫び求めています。あなたこそ光であり、憐れみであり、真の慰めと希望を与えてくださる主であられるからです。どうか苦しみの中を彷徨う香港人を慰めてください。大きな決断をしなければならず知恵を必要とする人々に、主よ、どうか聖霊によって見究める知識と平安をお与えください。困難に立ち向かうために勇気を必要とする人々に、主よ、どうか忍耐と勇気をお与えください。
暴言や冒涜、邪悪や暴力に満ちているこの世の権力に対して、主よ、あなたの裁きを来たらせてください。あなたの御国を来たらせ、あなたの御心が天上においてなされる如く、この地上においてもならせてください。
私たちと共に歩んでくださり、御座において私たちのため執り成し、恵みを賜わるキリストの名によって祈ります。アーメン
[1] 孫宝玲(Sun Po-ling)、香港出身。台湾国立成功大学卒業、香港バプテスト神学校修士号、米国サザン・バプテスト神学校博士号。香港バプテスト神学校教授、シンガポール・バプテスト神学院院長を歴任、2019年より台湾神学研究学院新約学教授。「ローマ書講解」はじめ、著書多数。