遠い国の話ではなく… 「途上国」の障がい児と生きる中で 『グッド・モーニング・トゥ・ユー!』著者 公文和子さん 2021年8月11日

 世界保健機関(WHO)の統計によると、障がいのある人は世界中で10億人を超え、子ども・若者の10%にあたる約2億人に何らかの障がいがあり、そのうち80%近くはアフリカをはじめ、開発途上国に暮らす人々だと推定される。

 今春刊行された『グッド・モーニング・トゥ・ユー! ケニアで障がいのある子どもたちと生きる』(いのちのことば社)には、ケニアで障がい児支援事業「シロアムの園」を運営する公文和子さんが園を立ち上げるまでのエピソードや、同園で出会った子どもたちや家族の物語が描かれている。

 聖書には多くの障がい者が登場するが、イエス・キリストが生まれつき目の見えない人を癒やしたのが、「シロアムの園」の名前の由来にもなったシロアムの池。途上国では多くの場合、障がいが正しく理解されていないため、障がいのある子どものいる家族は差別や偏見の対象になる。「シロアムの園」という名には、コミュニティの中で心も体も、霊的にも癒やされる場所であってほしい、コミュニティ全体がみんなと他者を大切にし、大切にされるような共同体になってほしいという願いが込められている。

 本書の出版にあたり、一時帰国していた当時に衝撃を受けた津久井やまゆり園での事件についても言及した。先進国だからこそ生まれる差別と偏見もある。事件を通して、決して遠い国の話ではないとの意識を強くした。アフリカの「かわいそうな国」で「献身的に働く」小児科医という評価にも違和感を抱いてきた公文さん。「共に生きる」実践の中で教えられたことなどについて話を聞いた。

「共に生きる」ため〝教会の役割大きい〟
イエスに倣う「仕える」姿勢

 クリスチャンの家庭に生まれた公文さんは子どものころ、みんなと同じ制服を着て、同じことをしなければならない幼稚園での生活にどうしてもなじめず、当時まだ非認可だった「柿ノ木坂幼児グループ」(現・ベテル幼稚園)に転園する。遊びを通して創造性や自主性を育むことを目的とする同園では、子どもたちの〝好き〟や〝やりたい〟を尊重している。公文さんは本書で、この場所で初めて自分を「肯定」されたと実感できたという。

 「シロアムの園」では、たくさんの中の「一人」ではなく、一人ひとり違った存在であるとして、毎日の朝の会で子どもたち一人ひとりの名前を呼び、毎月誕生会を行う。子どもたちにとって名前で呼ばれ、誕生を祝ってもらうという体験は、「あなたは大切な人なんだよ。生まれてきてくれてありがとう」と肯定され、受け入れられたと感じられる瞬間に違いない。

 ひと言で「障がい」といっても、脳性麻痺、発達障がい、ダウン症、先天性奇形などさまざまなため、理学・作業療法士、特別支援教育の専門家などと一緒にそれぞれに必要な「個別療育計画」を立て、一人ひとりの成長をサポートしている。時に子どもたちは、大人が思ってもみなかったような成長を遂げて、公文さんや家族を驚かせる。

 てんかんの持病がある7歳のテモテ(仮名)は、正しく服薬するようになったことで発作がほとんど出なくなっただけでなく、施設に通ううちに愛されていると実感でき、自分に自信を持てるようになっていったという。初めのころは攻撃的な言葉ばかりぶつけていたが、少しずつ他人とコミュニケーションを取り始め、やがて自分より小さな子どもたちの面倒を見る姿も見られるようになった。

 公文さんは障がいのある子どもたちに対して「支援する」ではなく「共に生きる」と表現する。障がいの有無にかかわらず、この地球上に生きる一人ひとりは、神様が特別に愛して、それぞれ違った賜物が与えられた特別な存在であり、対等な存在である。また、すべての人には、これから「障がい者」になる可能性がある。

 「共に生きる」社会を実現する上で、教会の果たす役割は大きいと公文さんは話す。教会学校など、子どもと関わりの多い教会では、子どもに対する支援の壁は低いものの、日ごろ接点の少ない障がい者に対しては「いたわってあげなければ」という域を脱し切れない現実もある。当事者の家族が教会で最も傷つくのは、障がいと結びつけて「罪のために祈る」など、正しい理解に基づかない牧師らの言動だという。

 「悪気はないと思いますが、教会が語る『福音』と目の前の障がいのある人の現実とが結びついていない。『仕える』という言葉が狭義になってしまっていて、教会の中での奉仕や『慈善事業』にのみ限定されてしまうことを危惧します。イエス様が共に食事をし、足を洗われた姿勢に見習わなければ」

 公文さん自身、かつては「誰かに何かをしてあげる」というだけの表層的だった理解が、教会や仕事などを通したさまざまな出会いによって深められていったと振り返る。イエスによって目を癒やされた男性は、パリサイ派に糾弾され、会堂から追い出される。

 「私たちの社会の中で、本当に目が見えない人、すなわち心を失っている人は一体誰なのでしょうか?  言語で挨拶をすることができない障がいのある人たちなのか、それとも、その人たちが発信している心のメッセージを受け取ることができない私たちなのか。これは、社会全体への問いなのではないでしょうか」(『グッド・モーニング・トゥ・ユー!』より)

 「シロアムの園」では現在利用している借家の引き渡し期限が来年7月に迫る中、新たな拠点を建設するためのプロジェクトが立ち上がり、11月19日までに1500万円を目標額として工事資金を募っている(https://a-port.asahi.com/projects/siloam2021/)。建設予定の支援拠点では、子どもたちやそのご家族が自分らしく輝いていくことができるように、また地域の人たちが子どもたちやご家族のことを知り、共に歩んでいくことができるように、笑顔あふれる「コミュニティ」を目指す。(ライター・河西みのり)

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