名古屋入管での死亡事件受け 矯風会が真相究明、再発防止を求める要望書 2021年8月31日
日本キリスト教婦人矯風会(飯田瑞穂理事長)は8月24日、「名古屋入管収容施設におけるウィシュマ・サンダマリさん死亡事件調査報告書に抗議し、真相究明のためのビデオ開示、再発防止徹底を求める要望書」を菅義偉首相、上川陽子法相、法務省出入国在留管理庁長官、名古屋出入国在留管理局局長に提出した。
要望書は、元交際相手からのDV被害を告発していたウィシュマさんに対し、女性相談所での保護を優先とした支援を優先すべきだったにもかかわらず、入管がDV被害者であることの認知もしていなかった点を問題視。
「入管施設の職員の意識や情報の共有、医療体制の在り方」「日本における在留資格を持たない人々への不透明な裁量による処遇や長期の収容等、これまで国連の人権機関から再三にわたり改善を求める勧告を受けてきた入管行政の在り方」に問題の所在があるとし、二度と犠牲者を出さないために、「真相究明に向けウィシュマさんのご遺族及び代理人、国会議員にビデオの全データを開示し、再発防止の徹底を図るよう強く求めるとともに、基本的人権である『身体の自由』を奪う日本の長期収容と送還の方針を改め、在留資格を持たない人々の命と尊厳が守られるよう現行法の抜本的な見直し」を求めている。
全文は以下の通り。
内閣総理大臣 菅義偉 様
法務大臣 上川陽子 様
法務省出入国在留管理庁長官 佐々木聖子 様
名古屋出入国在留管理局局長 佐野豪俊 様
名古屋入管収容施設におけるウィシュマ・サンダマリさん死亡事件調査報告書に抗議し、真相究明のためのビデオ開示、再発防止徹底を求める要望書
名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)は、吐血と嘔吐を繰り返し、発熱、血圧の低下、20キロの体重減少、手足も動かせないなどの極度の体調悪化に陥り、本人から点滴や外部病院の受診を訴える等、再三のSOSがあったにもかかわらず、治療らしい治療も受けられないまま今年3月6日に死亡しました。
出入国在留管理庁が8月10日に公表した最終調査報告書には命の危険のある人に対し虐待ともいうべき対応が記載されています。衰弱したウィシュマさんが2月26日午前5時15分頃ベッドから落下した際、職員2人はベッドに戻そうとせず毛布を掛けてその場を去り、床で「寒い」と訴えていたウィシュマさんは午前8時頃3名の看守勤務者によってベッドに戻されるまで、冷え込みの厳しい早朝に3時間近く床に寝かされたままでした。3月1日には、カフェオレをうまく呑み込めず鼻から噴き出してしまったウィシュマさんに対し職員が「鼻から牛乳や」とからかい、死亡前日の3月5日には、食べたいものを尋ねた職員に、衰弱して「アロ……」と答えたウィシュマさんに「アロンアロファ?」と聞き返す等、ウィシュマさんに対する人命軽視及び人間としての尊厳を軽視する姿勢が随所に記載されています。
2018年に着の身着のままで交番に助けを求め、元交際相手からのDV被害を告発していたウィシュマさんに対し、入管は初動において元交際相手からDV被害を受けていたことを重視し、女性相談所での保護を優先としたDV被害者としての支援を優先すべきでした。ところが入管施設の担当職員はDV防止法及び基本方針、法務省入国管理局が発出しているDV事案に対する措置要領の存在や内容さえ認識しておらず、ウィシュマさんはDV被害者であることの認知もされていませんでした。
問題の所在は最終報告書が指摘する入管施設の職員の意識や情報の共有、医療体制の在り方にとどまらず、日本における在留資格を持たない人々への不透明な裁量による処遇や長期の収容等、これまで国連の人権機関から再三にわたり改善を求める勧告を受けてきた入管行政の在り方にあります。全国の入管施設で収容中に死亡した方々は2007年以降17名に及びます。二度と入管収容施設で犠牲者を出さないために、真相究明に向けウィシュマさんのご遺族及び代理人、国会議員にビデオの全データを開示し、再発防止の徹底を図るよう強く求めるとともに、基本的人権である「身体の自由」を奪う日本の長期収容と送還の方針を改め、在留資格を持たない人々の命と尊厳が守られるよう現行法の抜本的な見直しを求めます。
2021年8月24日
公益財団法人 日本キリスト教婦人矯風会