聖学院(東京)男子中高生 研修旅行の成果、今こそ タイ山岳民族の子どもたちを支援 コロナ禍の苦境知り奮起 2021年9月11日
タイ最北部(チェンライ県)の山岳少数民族と30年以上にわたり交流を続けてきた聖学院中学校高等学校(東京都北区、伊藤大輔校長)の生徒有志と教員が、コロナ禍で窮地に陥る現地の子どもたちを支援するためプロジェクトを立ち上げた。
同校では中学3年から高校2年までの希望者30人が、毎年12月にタイでの研修旅行に参加してきた。しかし30回目を数えた2019年を最後に、コロナ禍の影響で中止を余儀なくされた。山岳民族の子どもたち46人の教育費、生活費を援助してきた施設が運営難であることを知り、これまで研修旅行に参加した高校生を中心に立ち上げたのが、「タイ支援プロジェクト2021」(https://sites.google.com/view/thai-seig/)。さっそく卒業生や聖学院の関係者から予想を上回る支援が寄せられ、当初の目標額である200万円を達成。コロナ禍以前の状況に戻るには数年を要すると考えられるため、9月末まで募集を継続し、「ネクストゴール」として350万円の達成を目指している。
顧問としてサポートするのは、2010年から研修旅行の引率に携わり、自身も山岳民族の結婚式で彼らの敬虔さに触れ、洗礼まで導かれたという同校教頭の伊藤豊さん。夏休み中もプロジェクト成功のために奔走した現役中高生たちと話を聞いた。
「〝友だち〟が困っているから」
生徒自ら声かけ合い役割分担
タイの感染状況は深刻さを増している。ワクチン接種も進んでおらず、新規感染者数は連日1万人を超え、死者は累計1万人に上る(8月末時点)。子どもたちが通う小中学校では、授業が自宅や寮でのオンラインに移行しているが、情報端末を持っていない子どもも多く、通信環境が十分でない地域や家庭も少なくない。このまま施設が貧困家庭の就学支援を継続できなければ、人身売買や麻薬の危険にさらすことにもなりかねない。
伊藤さんは昨年5月の休校期間中、2019年の研修旅行に参加した生徒によるレポート集「十年間の最初の日」=写真上=を返礼品とし、同じく研修旅行に参加した経験のある卒業生や在校生に向けて寄付を呼びかけた。コロナ禍が長引く中で、今度は参加した高校2年の五十嵐健太さんが、自分たちにも何かできないかと立ち上がったのを機に支援の輪が広がった。
まず取り組んだのは志を共有できる仲間を募ること。同校で2016年に始動した「みつばちプロジェクト」で、養蜂活動、ジャムなどの商品開発に取り組む同級生の土肥恵(けい)さん、デザインを得意とする北川雄造さん、すでに糸魚川での農村体験学習でクラウドファンディングの経験を持つ朴必勝(ぱく・ぴるすん)さんにも協力を依頼した。
プロジェクトから参加した朴さん以外は、同じ年の研修旅行に参加した間柄。入学前の学校説明会でタイの話を聞いて以来、いつか行きたいと願っていたという五十嵐さん。実際の研修旅行では、言語の壁に戸惑いつつも身振り手振りを駆使してボランティア活動やフリーマーケットで汗を流す中、すぐに打ち解け、仲良くなった高校生たちとは今でもSNSを介した交流が続いている。土肥さんは、「現地では自由時間が多く、自ら積極的にアクションを起こすことが求められ、自ずと社交的になった」と当時を振り返る。参加した中高生らが、数ある研修の中でも「最も濃厚で記憶に残る体験」と口をそろえる充実ぶり。
支援プロジェクトの始動に際しては、校内のポスター作りを北川さん、現地スタッフへのインタビュー、写真の選定を土肥さんなど、それぞれの適性に応じて役割分担をし、入念にサイトの準備を進めてきた。
中学3年で加わった下口素輝(もとき)さん、山澤充希(みつき)さん、小泉遥生(はるき)さんは、ちょうどコロナ禍と重なり、研修旅行にはまだ参加していない世代。それでも、伊藤さんの授業で見聞きしたタイに興味を抱き、何か役に立てるならと上級生と共にひと肌脱ぐことになった。彼らはリターン(支援に対する返礼品)のTシャツ、トートバッグ=写真下=制作や、クラウドファンディングのためのリサーチなどを担った。
プロジェクトの責任を負う顧問の伊藤さんだが、文章の最終チェック以外、指導的立場では携わっておらず、むしろスタッフの一員として指示を仰ぐ立場。部活ともサークルとも異なる、さながら学生主導によるベンチャー企業の様相だ。こうしたスキルは、自ら掲げた目標を達成するために考え、主体的に取り組む課題発見・解決型の教育実践の中で培われてきたに違いない。
プロジェクトへの呼び掛けページは、こんな言葉で締めくくられている。「僕たちはたまたま日本のように恵まれた環境で生まれましたが、彼らと同じような環境におかれる可能性は十分にあったはずです。そして、生まれた場所が違うだけで〝かけがえのない友だち〟であることに変わりません。『友だちが困っているから力になりたい』。これが僕たちの支援する理由です」
実際に支援者からも、「タイの友人を助けたいという気持ちに動かされた」「コロナ禍が貧富の格差に関係なく『平等』に世界中を襲う中で、大切な支援。支援が届きにくい閉ざされた社会の人々に、未来へのわかちあいを」など、激励の声が寄せられている。
「ネクストゴール」に向けて伊藤さんは、「(当初の)目標達成は、生まれた境遇も暮らす国も異なる私たちが、身を寄せ合う隣人同士であることの証明であり、大いなるエール」とコメント。五十嵐さんは、「広く知ってもらうという意味では、まだまだ目標を達成できていない。まずはSNSや動画などを駆使して知ってもらうことから始めたい」と意気込みを語る。
本プロジェクトに関する問い合わせは伊藤さん(thai.seig.cf@gmail.com)まで。