「日めくりアドヴェントカレンダー」降誕を祝い余韻楽しむ イラストレーター yme graphics/三輪義也さんインタビュー 2021年12月25日
4人の若手牧師が日替わりでクリスマスにまつわるショートメッセージをつむぐ日めくり方式の新しいアドヴェントカレンダーが誕生した。アドヴェントから降誕説最終日の公現日(顕現日・エピファニー)までの37日間を、旧約聖書のメシア預言から、ヨハネ、イエスの誕生物語、そしてイエスの洗礼までの、聖書に散りばめられたクリスマスストーリーを追いながら、生活の場にイエス・キリスト誕生の喜びを届ける。毎日のみ言葉に合わせ、やわらかな色合いとやさしいタッチのイラストを添えたのは、「新版・教会暦による説教集」シリーズ(キリスト新聞社)の装画も手掛けたイラストレーターの三輪義也さん。クリスマスを前に、カレンダーに込めた思いや教会とデザインの関係性などについて話を聞いた。
アドヴェントの新しい過ごし方を
「デザイン」はより良い方法を提案する仕事
――完成した『日めくりアドヴェントカレンダー』をご覧になっての感想をお聞かせください。
三輪 既存のアドヴェントカードや、カレンダーにはストーリー性があるものが少ないと思います。世間に流通している「アドヴェント」も、子どもたちのお楽しみ程度のとらえ方ではないでしょうか。本来、私たちクリスチャンが救い主の降誕を待ち望むという感覚や、クリスマスまでの気持ちの高まり、日々、み言葉を積み重ねていくというスタイルは「日めくりカレンダー」と相性が良かったと思います。特に、1月の公現日まで含まれている点は、クリスマスの余韻を大事にする気持ちも醸成できるのではないでしょうか。
――イラストを描くにあたって、どんなことを心掛けましたか?
三輪 毎日めくることを意識して、同じような色合いや構図が連続しないように気をつけました。クリスマスを迎えるためのカレンダーなのに、地味で暗いイラストがあると違和感を抱かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそも聖書の持つ真理は決して明るいものばかりではありません。当然、イルミネーションのような派手さは皆無です。むしろそういう華やかさとは対照的だったことが、4人の牧師によるメッセージからも存分に伝わるのではないでしょうか。その意味でも、このカレンダーは新しいアドヴェントの過ごし方を提案でき得ると思っています。
――他方、教会やキリスト教系の企業・団体が提供するクリスマス商品はデザイン性に乏しいと寂しさを感じることもあります。
三輪 そこは難しいせめぎ合いですね。例えばプレゼントをあげる時も、もらった人が喜ぶ姿を想定して選ぶわけですから、見た目に心地よいものを考えることは重要です。見た目は魅力的でなくても「読んでもらえば分かる」とか、「食べてみておいしければいい」という考えもあるとは思いますし、世の中に合わせるのではなく、教会は独自の価値観でいいという考えもあるでしょうが、包装を開ける前の楽しみもあって然るべきだと思います。まずは手に取りたくなる商品を作るのが、デザイナーの最低限の責任で、その重要さを理解してもらうことも必要な役割かもしれません。
教会関係だと予算が少ないので、そこまで贅沢にこだわることができないという事情も理解はできます。でも、悪いわけではありませんが定番のぶどうや羊などのモチーフから抜け出せず、いつまでも新しいデザインに踏み出せないという場合も多いのではないでしょうか。かわいい小動物のイメージと現実の教会が乖離しているという問題もあるかもしれません。古いものをすべて捨てる必要はないと思いますが、伝統は尊重しつつ聖書が大事にしてきたものを生かして伝え方を工夫することはできるはずです。同時に、きれいなポスターやチラシができたからといってキリスト教のイメージが簡単に変わるわけではないということも忘れてはいけないと思います。
『聖書 聖書協会共同訳』の装丁では、み言葉自体が光であるというコンセプトをどう表現するか模索しました。最終的には、日本のクリスチャンが少ないながらも一つひとつの窓となって暗闇の中で輝き、集合体として十字架に見えるというイメージにたどり着きました。
――デザイナーの仕事もだいぶ変わってきたと思います。
三輪 当初は絵を描く仕事を志していたのですが、大学でデザインへ転向し、卒業後は広告代理店で働きました。ちょうどアナログからデジタルへの過渡期で、デザインもパソコンでの作業が主流になりつつある時代でした。以前は版下も作っていたので物体としての「モノ」があったわけですが、今の仕事はデータとしては存在していても、作っているものの実体がないという不思議な感覚です。すべてがデジタルで完結しているというのは便利ではありますが、良し悪しはあると思います。
――改めてデザインとはどんな仕事でしょうか?
三輪 デザインというのは美術的なものに限りません。最近では「グランドデザイン」という言葉に象徴されるように、困りごとをどう解決すべきかという問題解決のプロセス自体がデザインだという考え方が主流になっています。デザインとは、何かを変えたいと考えた時に、より良い方法、手法を提案する仕事だと考えています。ポスターにしてもチラシにしても、デザインという広い領域の一部にしかすぎません。美術とデザインはイコールで結べない。表現を最終的な切り口でだけ見るのではなく、広い意味で生活にも深く関わることだという意識は必要だと思います。教会が世の中の困りごとにどう応えていくかということも、デザインが果たすべき重要な側面でしょう。
その際、クリスチャンではない人の意見を聞くのも大事ではないかと思います。世の中の人が教会やクリスチャンをどうとらえているかを、客観的に検証する作業はキリスト教を総合的にデザインする上で不可欠です。神の目から、そして人の目にどう映るのかを省みることも、デザインの物差しの一つだと思います。
デザインを、もっと俯瞰してみれば、私たち人間は「神のイメージに似せてデザインされた」ものです。自然界の被造物も神の手によるデザインです。今、それら本来のかたち・役割に戻る、戻すということが人類の課題とされている時代のように思われます。私たちの内に宿された「神を思う」「永遠を思う」信仰を保ちつつ、リデザイン(デザインし直す・整え直すこと)が必要であれば、それに対して自分は何ができるのか、それぞれが考えていけたらと思います。
――クリスマスの思い出は何かありますか?
三輪 牧師家庭で育ったので準備に追われていた思い出が強いですね。母が聖誕劇の脚本を書いたり衣装を縫ったり、お菓子を焼いたり、父は父でチラシを考案(デザイン)してまいたり、小さなプロダクションのように、あらゆることを自前でまかなっていましたので、プレゼントを楽しみに待ち望むというのんびりしたクリスマスではありませんでした。でも、お絵描きを手伝ったりしながら、創作物ができていく過程を見られたのは楽しい貴重な体験でしたね。
――ありがとうございました。
yme graphics/三輪義也
みわ・よしや 大学卒業後、広告代理店勤務を経て、イラストレーター/アートディレクターとして独立。第4回 日仏会館ポスターコンクール大賞、仏政府給費留学生として渡仏。帰国後初の個展。以後、個展、グループ展多数。イラスト、広告、装幀、書籍デザイン、ロゴデザインなどを手がける。『アートバイブル』『アートバイブル II』『聖書 聖書協会共同訳』(日本聖書協会)、『クリスマスの旅路』など教会暦による説教集シリーズ、『日めくりアドヴェントカレンダー』(キリスト新聞社)、『地の塩 世の光として』『福音の喜び』講解説教集など(一粒社)、『ジャンルを大切にして聖書を読む』など(地引網出版)、『聖書の教える救いについて(新装改訂版)』など(聖書同盟)、『聖書とがん』『7粒のしずく』など(イーグレープ)、聖書を読む会のオリジナル手引きシリーズ、『葉っぱ描命』(燦葉出版社)。バイブル・アンド・アート ミニストリーズ(B&A)会員(バイブル&アートで検索)。富士見聖書教会会員。
https://y-miwa.wixsite.com/ymegraphics